最初に言っておくことがある。
最初に一言だけ伝えておきたいことがある
どうしても、これだけは言わせて欲しいことがある。

ヤンキーは、がんばった。

とても辛い時間だったと思う。
とても懸命に戦ったと思う。
とても必死に立ち向かっていたはずだ。
この競争社会の中、勝利以外は意味がないとわかっている。
彼にとってその戦いは無謀だと理解していたし、周囲もそれを認めていた。
事実、負け戦であることはいうまでもない。
だが、残念なことに彼は諦めると言う言葉を知らなかった。
火を見るよりも明らかな結果を覆すために。
今、一人の男が奇跡を起こそうと奮い立つ……!

ヤンキー。24歳の春。
初めてルーター接続に挑戦の巻。

普通の人には機械音痴の心境ってわかんねぇと思うから、あえて言うと。
『ゴールのないマラソンを走るメタボリック(拷問)』か
『真っ暗闇のなかを突き進む迷路の落とし穴発動(予測不能)』もしくは
『初めての海外、通訳なしで行く二泊三日の旅(理解不能)』
のような心境で読むと分かりやすいかもしれんね!


そんなこんなで前回のあらすじ(超簡易版)。

秋葉に行って、巨乳を見て、ルーターを買って、自室に戻るヤンキー。


「ククク。これで私も2PC起動して脱☆機械音痴だぜ……!」
と意気込む機械音痴のおバカさんが一匹。
新たな伝説の予感である。
「ふっふっふ。一日後には誰にも私を機械音痴とは言わせねぇぜ………!!!!」

〜1時間後〜

ヤンキーがIN
まずは基本中の基本。挨拶からだ。

ギルドチャット
発信者ヤンキー

「ルーター接続に失敗したヤンキーです。おはよう!!!!!!」

……まぁそうだろうなぁ、と頷くヲタレンジャー共。
誰もが納得の結果であった。
機械音痴は死ぬまで機械音痴。
不治の病は治らない。
現代医学の限界を感じざるをえない瞬間であった。

「ぷぷーー! ただ繋げるだけのルーターで失敗するとかもうバカ以外の何者でもないの!」
一人大爆笑のジジイ。
ちっちっち、と指を左右に振りつつヤンキーは言う。
「私のせいじゃねぇよジジイ」
「んん? お前さん以外に誰もいないじゃろうが」
「私のせいじゃねぇよ。PCのせいだよ」
「…………」
凄まじい責任転嫁をする機械音痴の持ち主。
小学生の言い訳のほうがまだ可愛げがある
つまり、「バカは小学生以下」という結論がここに証明されたのだ。
ノーベル賞モノのバカである

「ま、まぁ、ヤンキーがルーター接続できなかったのは想定内じゃからどうでもいいとしてじゃな」
「違うよ」
「違わないじゃろうが」
「私がわざと接続しなかっただけだよ」
「やり方わからなかっただけじゃろうが」
「違うよ」
「違わないじゃろうが」
「ルーターの壊れてたんだよ、きっと」
「壊れてるのはお前さんの脳みそじゃろうが」
「違うよ」
「違わないじゃろうが」
「……………………」
「……もう、言い訳はいいかの?」
「はい……」
目線を逸らしながら黙るヤンキー。
反抗期のささやかな抵抗であった。

「と言うことはじゃな、お前さんはサブを作ることは不可能になったわけじゃ」
分かりやすい事実をストレートにヤンキーにブチ込む長老。
「ハッ! べ、べべ、別にサブなんて必要ねぇしな! 地雷は一匹いれば十分よ!」
それを聞いたヲタレンジャー共は一つ頷きながら。
「まぁ居るだけで邪魔ですしね」
「いや、普通にいらんだろ、これ」
「あはは。なんでこの人いまだに晒されてないのかな?」
「はっはっは。お前らの反応最高すぎて内容は最悪だな!」
腐ってもヲタレンジャー。
ヤンキーに対する感想に思考回路をつかうほど真面目ではないのだ。
しだいにギスギスし始めるギルドチャット
「ルーター可哀想じゃ」
「PCも存在価値なしじゃの」
「まず携帯電話から使い方をなんとかせぃ」
「メールなんぞいまどき小学生でもおくれるぞぃ!?」
反論できない事実つっこみの嵐にヤンキーは他人事のように呟いた。

「うーん。機械音痴って凄ぇなぁー」

おいおいすでに諦めの境地かよこのバカ……、と絶句するヲタレンジャー。
そしてヤンキーはまったくの脈絡もなく、
思いついたようにポンと右の握りこぶしを左手のひらに乗せると、こう言った。
「とりあえずサブキャラは作ろうと思うんだ。名前は『テラキメェッス長老』で」
間違いなく特定の人物への嫌がらせである。
大爆笑のヲタレンジャー(妙に名前がツボにはまったジジイ含む)。
よく考えると、とんでもなく汎用性が高い名前なのだ。
いままで偽者が現れないこと自体が不思議。
そして、会話の流れは当然のようにジジイの名前変えにシフトしていく。
「ギガキモス長老とかどうよ?」
「メガキモス長老もなかなか……」
「むしろミリキモス長老もありなんじゃないかな……?」
「村長とか町長とかむしろ会長もありじゃね?」
好き勝手ほざくのはいつものことなので割愛する。

そんな中、ヤンキーが一人の男をギルド招聘する。
流れるシステムメッセージ。

「ヤンキーは『テラスパイ長老』をギルドに招聘しました」

「「「す、スパイ…………!?」」」
驚愕である。
威風堂々。全っっ然まっったくこれぽーーーーーーーっちも!
隠す気ゼロのネタキャラ爆誕。
当然、中身はジジイ以外の何者でもない。

とある日のこと。
「なぁジジイ」
「なんじゃらほい!」
「サブ作ったらやっぱりヲタレンジャーに入れないとダメだったりするのか?」
「んー? ほかのギルドに行ってみるのもいいかもしれんのぉ」
「んー? ならメインのキャラを匂わせるような名前じゃないといかんねヲタレンジャーとしては」
「んー? でもヤンキーの偽者って多いからのぉ」
「んー? いやいや、もちろんジジイの偽者で嫌がらせにきまってるだろ?」
「んー? んー………んあ!?」
「はっはっは。テラスパイとか作って『始めまして初心者です〜〜♪』と言うんだぜ、マジきめぇ」
「ちょ、お前さん!?」
「ひゃっはーーー!!」
「そのアイデぃーア、頂くぞぃ!」
「ちょ、ジジイ!?」
「わし、早速作ってくるわぃ! もちろん顔と体型はいっしょじゃ!!」
「中身とキャラの外見いっしょなら偽者じゃねぇよ! それはただのサブだ!」
「ダイジョブダイジョブ! わかりゃしないわぃ!」
「いや、ばれるだろうそれ……」

閑話休題。
話題は次に移り、会議開始。
「えー。さて諸君。またひとつ何か嵐の前触れがする予感がヒシヒシと感じているんだが、問題が一つある」
ヤンキーは腕を組みつつも右手で顎を撫で。
「あぁ、ぶっちゃけると……こんなふざけたスパイを受け入れてくれるようなギルドを私には心当たりがないんだが、
諸君のメインキャラの所属するギルドで快く受け入れてくれるような懐の深くて底が抜けていて
『ハハハ、正直ダメじゃね?」
と笑い飛ばせるようなギルドはないかね?」
テラスパイ長老のレベルは10(世界チャットを叫べるレベル。間違いなく叫ぶ気満々である)
レベルが低すぎて領土ギルドでは門前払い。
中小ギルドでは、ネタにならない。
一人で騒ぐには限界がある。
どん詰まりは否めない。
誰もが諦めかけたその状況で一人のメンバーの挙手する。
キラーン、と目を光らせるヤンキー。
キラーン、と頭皮を輝かせるジジイ。
事件の始まりは、やはりこの二人によって引き起こされるのであった……

そのギルドには怪人が存在するという……
人は言う。
ヤツは出会うたびに顔が違う、と。
魔性の顔でヤツは今日も祖龍の城を闊歩する……!
その男の名は超絶エステ怪人「だんじぃ」
ほぼ、毎日エステ師に通いつめ、目を、口を、鼻を、髪型を、輪郭を。
マジックばりに変幻自在に顔を変える怪人百面相だんじぃ。
完成された表情はまさに芸術。爆弾で顔を吹っ飛ばされたような輪郭は言葉で表現できません。
それでも喩えるならば、ゴッホの絵を見た絵の素人の感想。

「うん。ゴッホの絵ってどう見てもヘタクソだよね」

そう。凡人には理解できないのだ。
芸術は理解不能の領域に到達してこそ芸術。
ぼくら凡人には理解できないシロモノなのだ。
そんな芸術を理解する玄人集団「NAP」
彼らの背後に魔の手が伸びていることを、未だ知る由もない

麗らかな春の日差しが舞い降りるお昼前。
今日もそのギルドでは和やかな雰囲気でのんびりと完美ライフを楽しんでいた。
暖かな日差しを遮る様な怪しい陰りが世界チャットで流されたのはその直後である。

世界チャット
発信者『ヤンキー』

「暗号通信暗号通信。テラスパイ長老はただちに大手ギルドに潜入せよ。繰り返す、ただちに潜入せよ!!」

またあのギルドは一体何をやってんだろう……と疑問に思うNAPのメンバー達。
彼らはこの時点までは、傍観者であった。
楽しむ余裕もあった。
そう。次の瞬間までは……

「テラスパイ長老がNAPに招聘されました」

流れるシステムメッセージ。
まだ理解が追いつかないNAPメンバー
見事潜入を果たすハゲスパイ。

またもや流れる世界チャット。
「はっはっは! ではNAPの諸君! そのハゲの事をよろしく頼む! 
 これで誰にもスパイかどうかなどわからんだろうね! ひゃっはぁーーーー!!!」

明らかにいろいろ駄々漏れなスパイ宣言だが、どうでもいい。
ヲタレンジャーがわけわからんのは周知の事実。
だって、ハゲとバカは何にも考えてないからね!
(ちなみに作戦会議もない。すべてアドリブである)

と、いうわけでテラスパイ長老の第一声の挨拶が始まる。
「初めまして、初心者です〜〜♪」
誰もが思った。
いや、あんたテラキモス長老だろ……と。

その頃、ヲタレンジャーでは。
「追放に1m!」
「通報に2m!」
「世界チャット荒れるに1m!!!」
「はっはっは。オッズは追放に1,2倍。通報に1,5倍ー。大穴でNAPの役職付きに10倍だぜぇー」
絶賛テラスパイ予測に大忙し。
心配どころか賭け事始めだす始末。
ホントろくでもないギルマスサブマスメンバー共。
ヲタレンジャーは今日も元気だった。

その頃、NAPのギルドチャットでは。
「(おいおい誰だよ招聘したヤツ……)」
「(いや、放っておいても害はないような気も……)」
「(というか、NAPって大手だったっけ……?)」
誰も彼も頭の上に疑問符を浮かべながらのヒソヒソと作戦会議中。
その一人が勇敢にもスパイに「長老何しに来たの?」と聞くが
「ヒトチガイデスジャヨー」と視線をそらしながら棒読みで返答するジジイ。
一応、ハゲでもスパイ。
無意味な誤魔化しを続けるのは、一応、もうどんなにバレていようと一応スパイだからである。
しかし、NAPのメンバーは超的確なひっかけ問題を出した。
スパイのあぶり出しである(すでに遊び始める余裕が出始めたNAP)
その一言がこれだ。

「ウチのメンバーは貧乳が多いからなぁ」

「いるの!?」
即座に反応するジジイ。
ギルドリストを凝視しながら
「だれじゃ!?」
ジジイのロリコン&貧乳好きは、もはやベテルギウスの常識。
そこにいたのは、スパイでもなんでもない、幼い少女と小さな胸を愛する一人のジジイであった。
悲しき性。あぶり出しにひっかかるのも仕様がないというものだ。
愛である。
愛が愛ゆえに愛しすぎた故の思考を上回る超絶の即答。
愛ゆえの反応が裏目に出たのであった。
「NAPメンバーはほとんど小さいなぁ」
「ワシにとっての楽園!!!!!!!」
ジジイ大ハッスル。
愛は盲目、変態メーターフルスロットルである。
うむ、と一様にNAPメンバーは頷くと世界チャットで叫んだ。

「ちょうろー通報したよー」
「通報しました」
「今度、ひんにゅーにハァハァしたらヲタレンジャーにつき返します」

今まさにNAPメンバーの思いは一つ。
『早く出ていかねぇかなぁ……』
本音である。
ついつい世界チャットで叫んでしまうほどの本音の暴露。
しかし雰囲気の読めない事こそヲタレンジャーの流儀。
「よーし! これからもワシちょくちょくあそびにくるからねっ!」
え? また来るの? というか出て行かないの!? 
頭の上の疑問符と引きつる頬をどうしようも出来るはずもなく、手を振り去っていくスパイを見送るNAP

そして溜息吐きつつ、慌しく意味不明な時間が過ぎたと思った瞬間、
一人の男がNAPに招聘される……!

「我輩は麻呂である、がNAPに招聘されました」

嫌な予感が背に汗伝うNAPのメンバーはその予感が的中する挨拶を聞いた。

「我輩は…………ヤンキーーーーーーーである!!!!!!!!!」

「「「やっぱりお前かぁーーー!!!」」」
「おおぅ!?」
NAP総つっこみに若干怯む麻呂ことヤンキー。
もちろん、自己紹介の時点で隠す気皆無。
相も変わらず無駄に堂々としているヲタレンジャーのバカ代表の挨拶開始だった。
(蛇足ではあるが、単純にこの台詞言いたかっただけの名前なので特に意味はない)

「あっれぇー? ハゲどこ行った?」
キョロキョロ見渡すバカはハゲを探すが、すでに去ったジジイはどこにもいない。
「なんだよー。せっかく世界チャット荒れてたからNAPのギルドチャット荒らしを手伝……
ゴホンゴホン! 心細いだろうジジイを励まそうとやってキタダケだYO!!」
「「「お前らは人のギルドでなにがしたいんだぁーーー!!!」」」
目的は何だ、ときかれたヤンキーはまず腕を組んだ。
10秒ほど考えてみた。
「ふっふっふ。何がしたいのかと訊くのなら教えてやろう。それは―――」
腕を解いてNAPを指差しながらヤンキーは偉そうに言った。

「―ー―私にもわかりません!!!!!」

若干逆ギレ気味にふんぞり返るヤンキー。
えぇー!? と引き気味で絶句するNAP。
むしろまともな理由が存在するのなら、訊きたいのはヤンキーのほうである
何故なら、目的も何も最初からノリで突き進んでいるだけなのだ。
2PCでサブ起動するという目的もあったような気がするが、
それがいつから他所のギルド荒らしに変わったのか……。
人生を生きていればよく分からない出来事にブチ当たる事も多々あるものである。

「ククク、この私がよもや適当なキャラを作ることを目的にしていると思うまいなNAP!!」
時代劇のザコ役のような台詞を吐くヤンキー。
そう。ヤンキーには一つ言いたい台詞があった。
あれは木曜夜9時から始まる襲撃イベントのこと―――

ヲタレンジャーギルドチャット。
「ちょっとCC(キャラクターチェンジ)するー」
「自分もサブの報告のためCC!」
「ワシの精霊と妖精と妖獣と弓と戦士も経験地をタダでゲットじゃ!」
次々とCCするヲタレンジャー。
夜の一番メンバーが多い時間帯にギルドに一人ぼっちのヤンキー。
「はーげはーげはーーーげ!」
返答のないギルドチャット
「サブなんて必要ないもんね!!」
誰にも聴こえないギルドチャット。
「わ、私にはラッパさえあれば十分だもん……」
誰もいないギルドに取り残されるヤンキー。
かまってもらえないヤンキーはラッパを取り出す。

世界チャット
発信者ヤンキー。
「おいおいおいおいおい!? お前ら襲撃イベントで経験地貰えるからってCCしすぎじゃね!?
 私はサブが一人もいないから『CCします』って言えねぇ! 悔しくないもんねっ!!」

ウサギは寂しいと死ぬが、バカは寂しいと騒ぎ出す
黙ろうと騒ごうとバカは迷惑極まりない存在であることに違いない。
今も昔も変わらないバカの常識である。

それも今日この瞬間までの話。
ヤンキーは完美世界を始めて2年間言ったことのない台詞を
「今こそ私はこの台詞を言わせてもらう!」
ヤンキーはいまだかつて存在すら知らなかった『キャラクター選択』のアイコンを表示し。
「は、初めてのC・C! ではさらばだNAPの諸君! また荒らしにくるぜ!」
もう来るなよお前ら……、とNAPの誰もが思ったが、突っ込み入れると反応するので放置。
バカは本音で不吉なことを言い残し去るのを見守るNAPのメンバー達なのであった。

〜三ヵ月後〜
NAPの人員整理のため、倉庫キャラや加入したが実働していないキャラを追放処分していると、
「そういえば、スパイと麻呂はどう考えてもいらないキャラだから追放してもいいよね?」
はい、と頷くNAPメンバー。
満場一致の可決によりハゲとバカはめでたく追い出させる。
えぇ、NAPもメンバーも後ろ髪引かれる思いではあるが、人員整理なら仕方がないのだ。
世の中にはどうしようもない決定がある。
だから、この追放処分は誰もが否定したくても受け入れなくてはいけない事実だった。
決して。
「いい加減このふざけた二人は追放しておかないとまずいだろ」
と思ったわけではない。

NAPの新しいスタートに心から応援するハゲとバカ。

「クックッく。ジジイ、次はどこを荒らしに行く!?」
「フォフォフォ。まぁ、追々忍び込むとしようぞ。何せワシってスパイじゃし!?」

次はあなたのギルドが標的にされるかもしれない。
懲りない二人は次の獲物を求めて野良の旅に出て行くのであった……。


もどる!!

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