サブ

彼らの役目は様々だ。
ときにアイテムの倉庫に。
ときにダンジョンの支援役に。
ときに「ククク、くじが引きたいけど大当たりが出てメインキャラの名前が赤ログで流れたらマジ恥ずかしくね!?」
といった恥ずかしがり屋さんの隠れ蓑に。
決して表舞台に躍り出ず、常にメインキャラクターを効率的に動かすために影から支える黒子役。
彼らはそう呼ばれる存在だ。

だがしかし、それはほんの一例。
ではここでみんなに質問だ。

『もし、ヲタレンジャーでサブを作るとしたらどうなるでしょーか?』

今回の黒歴史は、ある一人のハゲの勇敢にして非常にはた迷惑極まりない行為のさらしである。
ネタだからといっても許されざる行為。
ハゲだからといってもやりすぎは否めない。
であるがしかし! 
「やっちゃ駄目だろそんなこと……」的な行動こそがヲタレンジャー。
テラキモス長老。ここに極まれり。
その誰にもマネすることなどありえないサブの生き様。
これは、そんなある日のハゲの物語である。

その日の始まりはとある男のINしてから挨拶抜きで放った第一声から始まった。

「やっぱりさ、真の男なら白だと思うわけよ。つーかクリスタルホワイト?」

毎度おなじみのヤンキーである。
通販の悲劇から一ヶ月。
ヤンキーはクリスタルなホワイトに目覚めていた。
「「「……………」」」
その発言に押し黙るヲタレンジャー一同。
「いや、ほら? やっぱり白という色は綺麗というか清純というか穢れのない無垢な色じゃん?
 私にピッタリというまさに私色というかね? もうこれしかないって言うか、なんであんなに白が嫌だとかほざいていたのか。
二ヶ月前に戻って私に正座で説教かましてあげたいくらいだね!!!!」
ギルチャをぶった切りながら続くヤンキーの『独り言』。
誰も口を挟まない。誰もツッコミさえ入れない。誰もが禁句とばかりに口を閉ざす。
何故ならば―――
「やんいーやんいー」
「何だジジイ。というか人の名前くらいちゃんとタイピングしろ」
そしてテラキモス長老は、いい加減ヤンキーの暴走という名の空気読めない発言を止めるために簡潔に、
一言。
「黒について語るのじゃヤンキー」
「ゴフッ!」
心理的衝撃を受けるヤンキー。
目が血走り、手が小刻みに震え始める。
すかさず畳み掛けるテラキモス。
「ワシも昔は黒髪じゃった」
「ゴホッゴホッ!」
ハゲの突っ込みも忘れて、心に深く刻まれたトラウマを刺激されるヤンキー。
両手で顔面を覆い、激しく首を左右に振り続ける。
「今日も天気は曇りでお先真っ黒じゃの〜」
「あぁぁあああぁ、うあぁぁああぁぁあああ!!!!」
必死に思い出さないように叫びながら拒絶する危ないバカが一匹。
『黒』に過剰反応するヤンキーの悲しみ。
タイプPの悲劇はまだ続いていた。
否、むしろ自虐ネタとして懸命にヤンキーは前に進もうと頑張っていたのだ。
まぁ、結果としてさらに傷ついているだけなのだが、ヤンキー以外にはどうでもいい余談である。

そんなこんなで朝のカオスな挨拶がすんでからジジイが、
「そろそろタイプPをネットに繋いだかのヤンキー?」
「はぁ? 何言ってんの? おいおいいいかそこのハゲ?」
やれやれ、肩を大仰に透かしながら、ヤンキーは偉そうに、そう、とても偉そうにこう言った。

「私にネットを繋ぐとか出来るわけないだろうが!」

人間が呼吸するくらい当たり前のことを、ふぅ、やれやれこれだからハゲは……、
と天を仰ぐヤンキーをよそに戦慄するジジイ以下ヲタレンジャー全員。
義理と人情で同情が入り混じるヲタレンの突っ込みタイムの開始である。
「あんたどうやって完美をプレイしてんの!?」
「あぁどうせおじい様に繋いでもらったんでしょ?」
「バカなの? 本当にバカなの? 二年後にはTVは見れるの?」
「おいおいヤンキーをなめたら行かんぞ。携帯のメールさえ満足に打てない男じゃ」
「す、すごいなそれは! いや、後ろ向きな意味だけど!」
ヤンキー。照れ隠しに頬を掻きながら一言。
「おいおい事実だからってそんなに褒めるなよ」
「「「「…………」」」」
もはや黙り込むヲタレンジャーのギルドチャット。
時代の先取りするならともかく、時代を逆走している男は世界広しといえどヤンキー以外ありえまい。
恐ろしい男である。実に恐ろしいバカである。
地雷は寄生と相場が決まっているくらいの恐怖を間接的に味わうヲタレンジャーであった。

「しかしヤンキーよ。お前さんもそろそろサブを作っても良い頃合いじゃとワシは思うぞぃ?」
「あん?」
なんでだ? と首を傾げるヤンキーにジジイは簡潔にこう言った。
「いや、お前さんヘタクソじゃからそろそろ他の職業について勉強しろ」
「い、言いにくいことをストレートにはっきり言ったなぁ!」
他の人ならば間違いなく喧嘩勃発の合図である。
「だってのぉ〜ダンジョンの地雷ルームに行くたびに知り合い連中が
『あ、ヤンキーさんヤンキーさん。出番ですよー』
とか言われてお前さん『よーし! 爆散!』とかのた打ち回って爆死するヤンキーってお前、
いくらなんでも地雷戦士の印象与えすぎじゃろうが」
「え? だって笑いを取らなきゃ負けじゃね?」
「そこは同意じゃ」
同意するのかよ……、と呆れるヲタメンはスルー。
「まぁ、ワシって超上手ぇからヘタクソなヤンキーにちょいと説明してやるぞい」

完美世界。
このゲームには他のゲームとは一線を画す特色が存在する。
一つはキャラメイク。
世界にたった一人のキャラを作れることは皆さんはもうご存知だろう。
高級エステ券を使えばさらに大幅な改造を施せるキャラメイクは誰もが一度お試しあれの課金アイテムである。
もう一つがステータス振り。
力、体力、霊力、敏捷。
この四つのステータスに、レベルが一つ上がるごとに与えられる五ポイントをどう振り分けるか。
これこそが完美世界の醍醐味でもあるのだ!
なにせ完美世界は、職業性能が極端と断言できるほど偏っている。
精霊は回復特化。妖獣は壁役。弓は攻撃過多。妖精の変幻自在なスキル。
あぁ、戦士と魔道は『バカ』か『地雷』か『ハゲが踊ってる』くらいの認識しかないからスルーな!
ダンジョンでは単体火力など不要。チームワークが命運を分ける。
足手まといが一人いるだけで全滅必至。
石クリキューブ招待状神無でレベルアップは地雷育成の極意。
一度育った地雷は不治の病と同等。レベル100になっても治りません。
分かりやすく言うと、『バカが機械音痴を完治』くらいの偉業。

「と、いうわけでじゃな。他の職業のスキルを知っておくだけで全然プレイスキルに差が出てくるのじゃ」
「へぇー。さすが全職業を制覇しているハゲは言うこと違うな」
「ほら。ワシってふざけているように見えて、やることやってるじゃろ?」
「ダンジョンで『記念撮影じゃ!』とかほざいてボスの横で手を振ったり、
タゲを奪わないように威力調節とはいえ踊ったり、
ダンジョンで同行モードにさせておいて2PCでサブのキューブクリアさせているハゲが何を偉そうに……」
「え? 見ていて面白いからオッケーじゃろ?」
「まぁ、そこは同意だな」
だから同意するのかよ……、と(以下略)

そんなこんなでヤンキーの『2PCでサブ育成計画』が始動。
なぜかヤンキーは機械音痴のくせにPCを2台(タイプP除く)持っているので、後はルーターのみ。
もちろん通販は論外なので、直接秋葉原の某超弩級家電量販店のPCコーナーへ直行。
と、見せかけてやっぱり某レストランで英気を養いつつ、ダラダラと最後にルーターを購入するヤンキー。

そのときの一幕(通話記録)
「じっちゃんじっちゃん」
「なんじゃ。ワシは今ライブの練習中なのじゃから手短にの」
「わかった手短に説明するわ。えーゴホン!」
「いいからはよしゃべれ」
「巨乳を堪能した後、ルーターを選んでいるんだが、どれを選べばいいか分からん」
「何故じゃ。まったく理解できんのに簡単にその光景が頭の中で創造できるのは何故なのじゃ……」
「で、どれを選べばいいんだルーター?」
「適当でいいじゃろ」
「わからねぇから聞いてんだろうが」
「おまえさん、説明してわからんじゃろ?」
「わからんな」
「説明いらんじゃろ?」
「しても無駄だな」
「手を前に出すのじゃ」
「はい」
「目の前のルーターを掴むのじゃ」
「掴んだ!」
「そのままレジにGOじゃ」
「オッケー!」

心温かくなるような一幕を経て、
無事ルーターを購入した後、帰路につくヤンキー。
こうして前振りは完了。
ヤツが自室に戻るとき、バカとハゲの物語は最高潮を迎えるのであった……。

次回予告

名前を変えた。
容姿を変えた。
それでもヤツはハゲだった……。

次回黒歴史タイトル。
「テラスパイ大作戦」
どうでもいいけど、これもう隠す気がないよな。


もどる!!

inserted by FC2 system