前回のあらすじ
ソニーから発売された最小モバイル「タイプP」
仕事をサボりながら執筆……ごほんごほん、時間と場所を選ばない軽さと小ささに物欲を刺激されたヤンキー。
例によってテラキモス長老の助言を得て、勇者は挑む。
インターネット通販というラスボスに………!

「おれ、今日帰ったら新しいPC買うんだ………」

果たして、機械音痴は運命を切り開けるのだろうか。
……いや、まぁ、オチはみんな分かっているだろうが、あえて今回の顛末を見守っていてほしい。
機械音痴を発動させたヤンキーは運命さえ敵に回す男であるということを。


1月27日。7時00分。
朝日が昇り、人々が目を覚まし動き出す小さな喧騒の中。
一人のバカは、テンション高めでジジイに振り向き。

「ジジイ、私は帰るけど、今日あんたは残業な?」

夜勤の終了時間ピッタリに相棒に仕事を押し付けていた。

引継ぎのバイトが病欠したため、二人のうち一人が残らなくてはならない状況である。
「おいおいおいおい。お前さん何をいきなり仕事を押し付けておるのじゃ?」
「私には、ジジイに残業を押し付けてでも、やらなくはならないことがあるんだ……!」

無論、インターネット通販である。
朝一で注文して銀行に直行するため、残業などしている暇はない。

「ワシだってメインキャラとサブキャラ(全職6名)の石クリしなければならんのじゃぞ!?」」
「黙れ廃人。私の残業はジジイの残業。ジジイの残業はジジイの残業。給料は全部まとめて私のもの。………何か変か?」
「おまえ、マジで最悪じゃな!?」
「おいおい、私は早く帰りたいんだからさっさと適当な捨て台詞吐いてくれよ。じゃないと優越感に浸れないだろう?」
「おまえさん、後で後悔させてやるからの! 絶対後悔させてやるからの! 見とれよこのバカチン!」
「はっはっはっは。出来るものならやってみやがれー」

持つべきものは残業を押し付けられる仲間である。
銀行が開くまで3時間。
タイムリミットは刻々と迫っていた。

午前8時。自室。
PCを起動し、ソニーの公式サイトを開き、タイプPのスペックをチェックしているヤンキー。

午前8時30分。
椅子の背もたれに深く腰掛け、ソニーのサイトでタイプPの詳細を見続けているヤンキー。

午前8時59分。
机に突っ伏しながら、ソニーのサイトの前で髪の毛をかきむしり続けているヤンキー。

午前9時00分。
完美世界を起動するヤンキー。
毎朝の世界チャをすっ飛ばし、ギルメンに挨拶もせずに、
「ジジイ!」
「なんじゃ?」
「1時間見たけどスペックをどれにすればいいかわからねぇ! 教えてくれ!」

忘れてはならない。
ヤンキーは機械音痴。ましてやインターネット通販は初めて。
成功率は限りなく低い。というか不可能。
不安はパニックとなり、疑心暗鬼になり、通販サイトを開くだけで終わった1時間。
ヤンキーはスタート地点ですでに死亡していた。

「やんきーやんきー」
「どうした? 早く教えろジジイ」
相変わらずの上から目線のセリフ。ジジイはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、
「ワシさぁ、誰かさんに残業押し付けられて超疲れて帰ってきたばっかりでのぉー」
「………………」
ジジイの精神的ないじめが始まった!
「そんでこれから6キャラの石クリせにゃならんのでのぉー、ぶっちゃけ超忙しいのじゃよなぁー。
………誰かさんにタイプPのスペックを教える暇がないくらい、ちょーいーそーがーしーいーのぉー!」
「く………貴様」
ジジイに頼るしかない以上、ヤンキーは謝るしかない。
そうだ、帰り際にジジイは言っていたではないか。
『後悔するぞ』と。
その通り。ジジイは分かっていたのだ。
ヤンキーが通販のスペックの選択欄で何を選べばいいのか判らないということを……!
「さすがのワシも今回の残業は疲れたのぉー……いるだけで良かったから暇じゃったけど」
「この野郎……! 人の弱みに付け込みやがって」
「あーん? いいのかなー? ワシに向かってそんな偉そうな口の利き方してもいいのかなー?」
「教えてくださいおじい様! 残業押し付けてしまって申し訳ありませんでしたぁーーー!」
思考時間ゼロ秒。即答で謝るプライド0%のヤンキー。
機械音痴と銀行の開店時間とジジイに謝ったほうが早いという打算が働いた結果、最善の行動を瞬時に選択したヤンキー。
一人では何も出来ない子供のような男である。
そんな男にテラキモス長老はさらにつけあがる。
悪徳高利貸しのような意地汚い笑みを浮かべながら、ジジイは棒読みで言う。
「でもなぁー、ぶっちゃけワシは面倒なだけでメリットがないしのー。なんか欲しいのー」
「貴様………条件は何だ、いってみろ!」
「いやいや大した事ではないのじゃよヤンキー」
ポンポン、とやさしく諭すように肩を叩きながら、
「わしの要求なんて『最高スペックにしたタイプPを一日貸して欲しい』程度の軽いもんじゃて」
「いまサラッと答え言わなかったか!?」
「ほう? おまえさん、要らない付属品の見分け方が分かるのかの〜?」
「ぐ………!」
「ソニーの純正品は高すぎてバカを見るだけじゃぞ? それにヤンキー機械音痴だからどういう設定にしたらいいのか判らんじゃろうが。それでもいいのならワシは口を挟まないでおこうかの〜」
そう言い残すとテラキモス長老は背を向け歩き出す。
「待てジジイよ!」
ヤンキーはふと疑問を感じてジジイに問いかける。
「貴様の要求にしては報酬が軽すぎる。………ジジイ、貴様何を企んでやがる」
「……………ちっ」
堂々と舌打ちするテラキモス長老はヤンキーに振り返り、笑顔を振り撒きながら、
「いやいやいや! ワシは何も企んでおらんよ? たとえば―――
ヤンキーに最高スペックのタイプPを購入させてワシの持っている音楽ソフトがどう起動するかによってワシもタイプPを購入するかどうかとか、
実はワシもタイプP欲しかったから実験台に丁度良いとか、
一モバイラーとしては一度は触れておかねばならんな他人のでいいからというかヤンキーのくせにタイプPとか生意気とか、
なんて全っ然、まったく、ちーーーっとも考えておらんぞぃ?」
「貴様のダダ漏れな魂胆は判った。てめー、私が機械音痴を克服したら覚えておけよ!?」
「いや、安心しか出来んぞぃその台詞だと……」
ヤンキーの機械音痴が直ることなど、彗星が地球に直撃するくらいの確率。
可能性があっても、実現は限りなく低い捨て台詞だった。

ヤンキーはジジイの設定したスペックを完美世界を最小画面にしながら打ち込み、銀行にて振込みが完了。

その3時間後。
PCに振り込み確認のメールが届く。
これであとは宅急便で自宅に配達されるのを待つのみ。
ヤンキーの初めてのインターネットの通販は、これで幕を閉じる。

………………………はずだった。


その二日後。
初めての通販で興奮冷めやらぬ中、ヤンキーは寝起きの眠たい目を擦りながら布団から這い出ると熱めの朝風呂に入り、納豆と味噌汁と鮭と煮物という和食を平らげ、
軽くストレッチをした後、PCを起動し、ソニーのサイトをチェックしつつ、タイプPの購入履歴を確認し、「はーやーくー♪ ひゃっほーー!」とのたうち回っていた
が、視界の端にふと違和感を覚えたヤンキーは違和感を見つけるために凝視する。
目の前に映っているのは、購入履歴だ。
そこには選んだスペックと付属品が有無が記されている。
その一つが違和感の正体だった。
そこにはこう書かれていた。

『ディスプレイ&LANアダプター なし』

その結果を人はこう呼ぶ。

―――注文漏れ発覚、と。

狙い済ましたような機会音痴の発動の雄叫びである。
「…………ふっ」
思い出したようにヤンキーは俯きながら笑い出す。
「フッフッフッフッフ、」
ヤンキーの笑い声は止まらない。その顔を誰かが見たらこう言うだろう。
『まるで泣いているようでした』と。
「フハハハハハ、ハァーハッハッハッハッハ!!!!」
しかし、見くびるな。
奴は失敗するたびに立ち上がる不屈の男、名前はヤンキー。
瞬間、ヤツの指がマウスをクリック。ソニーの通販サイトを開き始める!
「バカめ! 注文漏れなんぞもう一度注文すればいいだけの話よ! この程度で遅れをとったと思うなよソニーめ!?」
間違いなくバカなのはヤンキーである。
ソニーでさえ思うまい。
あの分かりやすい選択欄で注文漏れを起こす人間がいるなどとは。

後にジジイは語る。
「お前、5年後くらいには文明についていけなくて死んでいると思うぞぃ?」

ヤンキーは通販サイトの付属品のページを開き、
「あー、また銀行に振込みにいくのかーめんどくせぇなー」などと文句を垂れながら、アダプターを注文する。


『この商品は納期が未定につき、注文できません』


「…………………………………」
固まるヤンキー。
無言にてもう一度最初からやり直すヤンキー。

『この商品は納期が未定につき、注文できません』

何も言わず席を立ち、彼は背を伸ばすと、
「さて、寝るか」
布団にもぐり込むヤンキー。
完璧なまでのふて寝である。
無論、枕が涙で濡れたことは言うまでもない。

その夜
テラキモス長老に注文漏れの一部始終を話し終え
「ヤンキーヤンキー」
「………………はい」
力なく返事するヤンキーはジジイにおちょくられるのを覚悟していたが、続く言葉は予想外の返信。
「それだけ?」
「はい?」
「いや、だからのぉー、分かりやすく言うぞぃ?」
ジジイはゴホン、と咳払いをしてあくまで動揺しないように丁寧にゆっくりと、

「注文漏れは1個だけなんだよな?」

黙り込むヤンキー。
よく見れば、自信がないのだろう。表情が青ざめていく。
「……………おい?」
テラキモス長老はヤンキーの返事を待つが、反応は皆無。
否、ヤンキーは小声で「あれ? 私ちゃんと選択欄押したよな? 押したはずだよな? だってちゃんと最後まで確認したはずだしいやちょっとまてあれあれれあっれー?
完美世界を最小画面で起動しつつソニーのサイト開いたりしてたからもしかして間違って違う場所ポチった? ポチッちゃった? いやいやいやまてまてて………」
と、延々と呟いている不気味なヤンキー。
「おいヤンキー。注文漏れ程度なら問題あるけど、まぁ時間が立てばなんとかなる。しかしじゃな、スペック間違えていたらもう後戻りできんぞぃ!?」

故障で直すのとはわけが違う。
保障以前の問題。というか前代未聞。
もし間違えていたら即キャンセル。
事態は可及的速やかに処理しなければならない段階まで迫っていた。
ぶっちゃけ、泥沼に腰まで沈んでいる状態な感じである。

「あ、じじい」
「なんじゃ!?」
「いま、スペックを確認した。大丈夫みたいだ」
「本当じゃな? 1000回見直したか? 現実逃避して適当なこと言っておらんじゃろうな!? ワシのタイプPを間違えおったら承知せんぞ!」
「いつの間にテメェのにしてんじゃねぇよ!! というか1000回確認とかドンだけ私をバカにしてんだお前!?」
「いや、注文漏れとか有り得んじゃろ。もう機械音痴とかそういうレベル超えれるぞぃ」
「フッ……。天才は凡人には理解できないものなのよ」
「お前さんは紙一重でバカチンじゃろうが。脳外科行って一回脳ミソ見てもらったほうが良いじゃろ」
「私だって病院いって治るんだったら治してぇよ機械音痴!」
「バカは死ななきゃ治らんし、無理じゃな!」
「無理か! そうか無理か!! なら諦める!!!」
「諦める前にちっとは勉強しろ」
「はい…………」

とりあえず、アダプターはしばらく保留しつつ、タイプPが届くのは2月下旬。
その間の一ヶ月でタイプPの理想的な設定を模索しつつ(テラキモス長老が)待ちに待った2月の18日。
メールにてタイプPの発送通知が届く。
その夜、職場にてジジイに報告。
「ジジイ様。この度はお忙しい所を大変お世話になりまして。これはつまらない物ですが……」
野菜生活(緑)を手渡すヤンキー。
「うむ。苦しゅうない」
ストローを挿してチューチュー飲みながら満足そうに飲み干すテラキモス長老。
「いやーこれで一安心といったところだなぁジジイよ」
「フォッフォッフォッフォッフォ…………甘いわこの小童がっ!!!!」
野菜生活(緑)のパックをゴミ箱に豪快に投げ捨て(無論、ゴミ箱から外れる)ヤンキーを指差すジジイ。
「発送通知がきたからといって安心するなど愚の骨頂! 通販常習者のワシから言わせれば、三流以下じゃわい!!」
「な、何だと!? 通販には注文漏れよりまだ恐ろしいことが待っているとでも言うのかジジイ略して引きこもり野郎!」
ふ……と乾いた笑いを浮かべながらジジイは呟く。
「不在通知じゃよ……」
「は?」
「ヤンキーよ。確かにソニーはタイプPを完成させているじゃろう。提携を結んでいる宅配業者に依頼しているじゃろう。
しかし! 宅配業者が不在通知をポストに投入してしまえば自宅に届くのは1日遅れてしまうのじゃよ!!!!!!」
「……いやジジイよ。私は明日の朝から自宅に待機しているからまったく問題ないだろ」
ヤンキーの言葉にテラキモス長老は「あいたぁー!」と手のひらで額を弾くように叩く。
「かぁー! 分かっておらん! 全然この小僧は世間の荒波を分かっておらん! これだから通販初心者は困るわぃ!!」
「さっぱり分からん。説明しろ通販中毒者」
「あのなぁ、ワシらは夜勤人間じゃが、世の中の9割の人間は昼に動いておる。つまり、宅配業者から見れば午前中に配達したところで大抵が留守じゃ。
しかもワシら夜勤人間は雨戸を閉めっぱなしにしておるじゃろう? 外から見れば『あ、こりゃ留守だな』的な状況が出来上がっておるわけじゃよ!!」
「いや、呼び鈴が鳴れば気づくだろ」
「チッチッチ。甘い甘いわ! ワシはこの目で見たのじゃ―――

―――車の窓からポストに投入された一通の不在通知を。

あぁ、これひどい奴は最初っから呼び鈴鳴らさないどころか車から降りないから注意じゃぞ」

「マジで!? 『本気』と書いて『それ訴えたらマジで勝てるんじゃね?というかクビじゃね?むしろ殺す!』と読むくらいマジで!?」
「マジマジ真剣にマジじゃ。朝から窓枠の外を覗きながら警察の張り込みばり見張っていてもやりすぎじゃないぞい」
「外から見たらマジで不審者だなそれ」
「通販者の宿命じゃわい」
「そんな挙動不審な宿命初めて聞いたぞ………」
「とりあえず、気をつけておくのじゃぞヤンキー。『ワシ』のタイプPの為に」
「とりあえず、気をつけるように心掛けるとしよう。『私』のタイプPの為に」


朝8時自宅。
ヤンキーは行動を開始する。
自宅の門を全開で開け、雨戸を解き放ち、カーテンを取り除く!
シャワーを浴びて、ご飯を平らげ、家事洗濯石クリ出席を終わらせる。
最後に自宅の前の道が良く見える一階の居間にコーヒーを飲みながら待機するヤンキー。
タイプPが届いてからでは遅い。
それまでに出来ることは全て終わらせ、残りの時間の全てを持ってタイプPに注がなければならない。

9時15分。
家の前に一台の宅配業者のトラックが止まる。
宅配業者の目が居間のヤンキーと交差する。
呼び鈴を鳴らす必要もなく、留守を確認するまでもなく、配達主が仁王立ち。
配達業者から見れば、間違いなく面倒な客である。

無事、タイプPを受け取り、自室に運ぶヤンキー。
さぁ、ご開帳である。
箱から出てくる物はもちろんタイプP。最高スペックなことはもちろん、余計な付属品は全て払いのけた完成品。
中身の充実振りもさることながら、ソニーといえばカッコよさ。外観も忘れてはならない。
今回のタイプPから選べる色は、黒、赤、緑、白の4種類。
ヤンキーが選んだ色は無論、ブラック。
派手さなどいらない。シンプル イズ ベスト。
ぶっちゃけ、ほかの色を選んで失敗しないような可もなく不可もない、無難な色である。
しかしなにはともあれ、ここまでくれば色など些細な問題である。
これでヤンキーのPCスタイルは確立されたといっても過言ではない

――――――はずだった。

「……………」
箱を開けると、中からはもう一つの箱がある。二重にいれてあるのは対衝撃用の備えだろう。
本命の箱を取り出すヤンキー。
しかし、何故だろうか。
この今まで何度も味わってきた失敗する前の嵐の静けさ的な不安感は……
問題など注文漏れ程度だったはず。
だというのに本命の箱を取り出した瞬間に脳裏を過ぎる不安感。

見るな、見てはいけない。それを見たらお前は間違いなく後悔するぞ―――

ヤンキーの手が止まらない。
ヤンキーの腕が止まらない。
やんきーの目が止まらない。
ここまできて、一体誰にヤンキーを止めることができるというのか!

最後のフタをあけるところで手は止まる。
ここが分水嶺である。
引くも地獄、進むも地獄。
ならば、進んで地獄を突っ走るのがヤンキーである。
意を決し、フタを吹き飛ばす!

「………あぁ、そういうことか」

一人納得しているヤンキーの両手で持ち上げられたタイプP
正確に言うと、タイプP『クリスタルホワイト』

携帯電話を取り出して、テラキモス長老に電話する。
「おいジジイ」
「どうした?」
「真っ白だった」
「は?」
「だからさ、タイプPのカラーを間違えて頼んでいたらしい。箱開けてから気づいた」
「………」
「………」

二人は息を整えるように一呼吸した後。
「ぶはははははははははあははははははは!!!!!!!!!!」

腹を抱えて大爆笑。過呼吸気味で涙を流す状況が電話越しに伝わるほどの衝撃である。
ちなみに
ヤンキーの場合は、「こりゃマジでどうしようもねぇよなぁー機械音痴」と事実に笑うしかない状況。
テラキモス長老の場合は、予想以上の結果にネタとしてではなく、「あぁ、こいつならやりかねないな」と否定できない事実に爆笑なのである。

「フ………。どうやら最後まで通販というものは私の障害として立ち塞がっていやがったようだぜ」
「いや、おまえバカじゃろ?」
立ち上がる気力をなくしたヤンキー。
「萎えちまったよ……真っ白に、クリスタルホワイトに萎えちまったよ」
「いや、意味がわからんのじゃが。しかしお前さん、マジで機械音痴じゃな」
「おいおいジジイ。私が今タイプPで何しているのか想像できるか?」
「誰だって最初にするのはセットアップじゃろ」
「はっはっは。今の私は機械触るのマジビビリ状態だから箱にそのまましまっちゃったぜ!?」
「………悲しすぎる! マジで涙が出てきたぞぃ。ヤンキーに対してではなくせっかく届いたタイプPに。
ワシがセットアップからシステムの設定までやっちゃるから、今日そのまま持ってくるのじゃぞ?」
「はい………おねがいしますよ………」

その夜。
ウキウキ気分でタイプPをヤンキーから受け取ったテラキモス長老。
接続部分や全体の質感を確かめようと、裏を見ると。
「あれ? ヤンキーよ。なぜにバッテリーだけ黒なのじゃ?」
「あぁ、頼んでおいた予備バッテリーはちゃんと黒だったからにきまってるじゃないか」
「で、肝心の本体は?」
「クリスタルホワイト」
簡潔に答えるヤンキー
タイプPを机に置くテラキモス長老。
ウンウン、とお互いに頷くと二人が二人ともお互いにタイプPを指差しながら。

「ぶははははははははあははははははは黒でやんの! バッテリーだけ黒でやんの!! ぶはははははははははは!!!!」

そして再び大爆笑。
もうどうしようもない結果である。
最悪なのは、スペックだけは間違っていなかったので開き直って新しくもう一台注文できないことである。
と、いうことは、これからはクリスタルホワイトを使い続けなければならないのだ。
ヤンキーは同じ轍を踏まないように心に強く誓う。
『もう二度とインターネット通販など使わねぇ』

今回の戦績。
インターネット通販 VS ヤンキー

注文漏れ   あり
注文間違い  あり
機械音痴発動 あり

誰がどう見たところで完敗。

「ジジイジジイ」
「なんじゃ?」
「これからは私が欲しい機械は全てジジイに頼んでもらうからよろしくー」
「…………」
自分で出来るようになれ、と言っても出来ないだろうなぁーと心から思ったテラキモス長老なのであった。


後日談。
タイプPが届いてから2週間後。
ようやく納期未定が解かれたLANアダプターを注文。即銀行で振り込んで30分後。
近くのソフマ○プに立ち寄るヤンキー。
すでに購入済みだというにもかかわらず、タイプPのコーナーに足を運び、ブラックを眺める未練タラタラな男が一匹。
「あぁ、ブラック。何で私はホワイトなの……」などと心の中で呟きながら曲がった右コーナー。
そこに鎮座しているのは高級品が飾られているガラス張りのショーウィンドウ。
その中に―――

―――2週間、秋葉原の全店回っても見つけられなかったLANアダプターが1個。

銀行に振り込んだ直後に発見すると言う快挙を成し遂げたヤンキー。
マジで二度とインターネット通販なんて使ってやるものかー、とマジで誓った夜勤明けの午後1時。

この先も続くであろう彼の機械音痴の苦難はまだ始まったばかりである。



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