誰でも弱点を持っている。

苦手なものがある。嫌いなものがある。理解できないものがある。
完璧などありえない。好きなことは長所になるが、嫌いなことに自ら近づくバカはいない。。
子供のころに苦手だったことも、大人になれば平気になる事もあるだろう。
しかし、短所は簡単には埋まらないからこその弱点。
故に、長所と短所の溝は深まるばかりである。。
克服できない弱点は、放置しておけばいつか悲劇につながる。

これは、ある一つの短所が生み出した悲劇。
とある機械音痴に翻弄される一人の男の悲しみの物語である。


1月27日。
それは、ある一冊の雑誌からはじまった。
「じっちゃん、おみやげ持ってきたぜ!」
「うむ、苦しゅうない!」
 偉そうにジジイが受け取った雑誌の名前はモバイル専門雑誌「週間アスキー」しかも秋葉原で無料配布されている限定版。
 とある超弩級家電量販店のレストラン街で昼食の帰りに下のフロアでで手に入れたブツである。
「ふむふむ。今月号は小型モバイル特集か! やはり小さいということは素晴らしいということじゃな!」
「なんでもかんでも小さければ良い、というその発想。相変わらず貴様の脳ミソはハゲしいなぁおい」
「その通りじゃ! なぜならワシはハゲじゃからな!」
「はっはっはっはっはげが」
「フォフォフォフおバカが」
 お決まりの戯言をお互いに受け流し、本題は雑誌の内容に変わる。

「ふむふむ……ヤンキー。ちょっとこれ、見てみ?」
「なんだよ? ………お? これはバイオの新作か!」

 表紙をめくると、ソニーの顔といっても過言ではないPC「VAIO]の特集から始まっている。
 新機種の名前は「タイプP」手帳サイズの薄さと軽さを誇る最小モバイルである。
 ペラペラと最後までページをめくり、もう一度最初のページから見直し、一人うんうんと頷きながらジジイに向き、
「じじいよ」
「なんじゃ?」
「これ最高スペックで買え。そして私にプレゼントだ」
「自分で買わんかいバカたれ!!!!」
「私のお金を使ったら、貯金が減るだろうが!」
「買えば減るのは当たり前じゃろうが!?」
「じじいが買ってくれれば、私の懐はまったく痛まないじゃないか!」
「ワシにメリット皆無じゃわい!」
「ヲタレンジャーサブマスターとして命ずる! 買えよ!」
「ワシいつも思うんじゃが、ギルマスに命令するサブマスってお前さんくらいじゃぞ? 
というか役職でいうとワシのほうが偉いんじゃぞ? おまえ馬鹿じゃろ!?」
 ヤンキーはジジイに人差し指指されながら軽く考えた後、
「はい」
「く……! 堂々と頷きやがったこの馬鹿たれ。肯定されたらワシ何も言い返せないぞぃ………」
「はっはっはっは。私の勝ちだな! 敗者は罰ゲームとしてタイプPを私にプレゼントォーーー!」
「フォフォフォフォ。するわけないじゃろう馬鹿ちんが。しかしそうじゃのぉ〜。
機械音痴のヤンキーにもわかり易いようにアメリカの通販番組的なノリで説明してやろうかの!」
「まぁひとつよろしく頼む」
うむ、とお互いに頷く。

ヲタレンジャー黒歴史ショッピングの始まりである。
「Hey! キャサリン(ヤンキー)!」
「何かしら、マイケル(テラキモス長老)!?」
「新しいPCが欲しいだっッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッて!?」
「そうなのよマイケェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェル! もう私我慢できないの! 
欲しくて欲しくて堪らないのよ! 私の心が胸ズキュンな感じよ!?」
「そんな青少年の物欲を刺激しまくりの君にピッタリのPCが一ヶ月前からとっくに発売されてんだぜぇーー!」
「オーマイゴッド! もう店頭でも発売されまくってるのね!? 今の私の心境はズバリ『三十路過ぎて結婚適齢期をすぎた行き遅れの女』!?」
「心配無用だぜベイベェー! 今から注文しても大丈夫なんだぜ!? 根拠は全くないけどな!」
「HAHAHAHAHAHAHA!」
「HAHAHAHAHAHAHA!」

注:現在午前4時。二人とも徹夜でテンションがフッハー!!しております。ご了承ください。

そして、タイプPの説明がアメリカンなテンションで続く。
「それで今回の商品は一体どういうヒャッハーな内容なのかしらジョニー(テラキモス長老)!?」
「Year! 今回のボンバー具合は半端じゃないぜエリー(ヤンキー)! まずこいつを持ってみてくれチェケラァ!」
「!? ナ、何なのこの軽さは!? ジョニーの『必殺☆宴会用の爆笑アフロ(ヅラ)』より軽いわ!?」
「オウイェ! 極限までソニーが拘った軽さ、なんと588グラム! こいつはクレイジーだぜ!」
「薄さも下手したら、これ文庫本より薄いわ! こんなに薄かったらスペックは相当ダメだったりしないのかしら!?」
「その心配こそ無用だぜエリー! こいつのスペックはなんと―――」
今まさにテンション最高潮で説明しようとし始めたジジイだったが、ヤンキーが手を顔の前で左右に振り、
「あ、ジジイ? 専門的な知識は端折って端折って。私にわかるわけないから」
「………今、ワシの存在が全否定された気がするぞぃ?」

脈絡もなく素に戻る二人。
そもそもヤンキーが機械音痴なのは周知の事実。
説明そのものが無駄である。
しかし、その程度の事で会話を止めるほど二人は甘くはない。ぶっちゃけ、何も考えてない。
壊れたテンションのまま、アメリカンは続いていく。

「それでビリー(テラキモス長老)! 肝心のお値段は幾らなのかしら!?」
「Oh Yes! 今のキャシー(ヤンキー)の要求をかなえるスペックで揃えると、なんとなんとぉーー!?」
「20万? 30万? それともプライスレス逝っちゃうのかしら!?」
「今ならもれなく予備バッテリーを追加してもぉーーーー! 15万なりぃーーーーーーー!」

ん……? んーーー?  あっれーー? と、ヤンキーは素に戻って腕を組んで首を傾げながら、
「あれ? ジジイ、それ普通に安くね?」
「ワシもビックリした。これスペックだけは最高値にしていらない付属品省いたらこうなったのじゃよ」
予備バッテリーと消費税省くと、本体価格だけで12万。
買うことを決心した瞬間であった。
「「オゥケェーー! 今回の内容も素晴らしくヒャッハーだったわ! 家に帰ったら即注文ね!」
「ォゥイーーエス! これさえあればきっとキャシー(ヤンキー)の機械音痴も………直らないだろうな! うん! 直らない!」
ジジイの言葉にヤンキーが激昂する……と、思いきや、ヤンキーはボロボロになったボクサーが
リングコーナーに倒れこむような感じでに座り込み、コーヒーを一口飲み、乾いた笑いを浮かべて、
「フ……………………ジジイ。ボケるときは真実は言っては言けないんだぜ? マジ図星で突っ込み困るからさ………」
「すまん。今のはワシが悪かった…………許せ」
ヤンキーの肩に優しく手を置いて謝罪するジジイ。

ヲタレンジャー暗黙の了解その2『たとえネタであろうと、過ちには謝罪』
普段はバカでも締めるところは締める。ネタギルドの鉄則である。
「さぁ、今回も最高の内容でお送りしたヲタレンジャー黒歴史ショッピング、略して『ヲタ黒』!
そろそろお別れの時間になってまりましたが、どうだったキャサリン(ヤンキー)!?」
「はい。まったくわかりませんでした」
「HAHAHA! どうやら大満足だったようで安心だ! では、来週のヲタ黒もお楽しみに〜〜〜〜!」
「え? 来週もすんのこれ?」
「see you next weak!」

4時間後。
悲劇の幕が開けることを、彼らはまだ知るよりもなかった………

次回予告
インターネット通販を使うのを初めてのヤンキー
次々に襲い掛かる問題。天井知らずのテンション。そして、炸裂する機械音痴。
アイツの人生は波乱万丈。………順風満帆の文字はない。

次回黒歴史予告タイトル
「情報弱者ヤンキー 〜タイプPの悲劇〜」
………真っ白だ。クリスタルホワイトに燃え尽きちまったよ


modoru!!

inserted by FC2 system