ウソを吐く。
誰もが誰かにウソを吐く。

目に見えるものだけが真実ではない。
誰でも見た目に騙される。
誰でも綺麗事に騙される。
誰でも嘘に振り回される。

満面の笑顔で近づき、他人を騙す詐欺師がいる。
極上の愛想笑いでお辞儀をするコンビニ店員がいる。
ボス戦で戦っている最中にモニターの向こうでは漫画を読みふけっていることだってある!

騙されない人間はいるだろう。
だが、ウソを吐かれない人間は存在しない。

これは、文字というコミュニケーションで生活する完美世界の盲点を暴く物語。
同時に、あの日の舞台裏の全てである。


領土戦当日の朝。
いつものように朝9時に世界チャの挨拶を叫ぶ男ヤンキー。
その後、ジジイがINすると同時に両者の罵り合いがスタート。
その途中「あれ? 今日って領土戦じゃね?」と気付き、慌て始めたヲタレンジャーのハゲなギルマスとおバカなサブマス。
さぁ、作戦会議スタートである。

ヤンキーは無意味なほどに右手を「はいはいはーーい!」と高く上げながら、
「なぁジジイ!」
「なんじゃらほい!」
「そろそろヲタレンジャーも次の段階に入るべきじゃね!? と思うわけさ」
「具体的なプランを言うてみぃ?」
その言葉を待ってましたばかりに踊りだしたヤンキー。
最後の決めポーズを決めた瞬間、ヤンキーはこう言った。

「『変・身・♪』……しようぜ?」
「!?」
まるで稲妻を轟かせる雷雲のようにハゲを発光させながら、ガクガクと膝を地面につくジジイ。
「ど、どうしたジジイ!? た、大変だみんな! ジジイが、ジジイが変態だ!」
「だれが変態じゃぁーーーーーーーーーーーー!」
「おっと間違えた。失敬失敬、本音が出ちまった悪ぃなジジイ」
「うむ。謝ったから赦す! ワシは幼女は好きじゃけど変態じゃないから許すぞぃ!」
はっはっはっは、と笑いあう二人を眺めつつヲタメン共は、
「(……え? 許しちゃうのか今の?)」
「(堂々と変態呼ばわりしたのに……?)」
「(というかこのギルド、シリアスな雰囲気ゼロすぎねぇ?)」
なんなんだろなぁー? と首を傾げまくりのヲタメンを放置しつつ二人は話を戻す。

「で、ヤンキー。もう一度言ってみてくれんかのぉ」
「だからさぁ『ヲタレンジャーは正義の味方なんだから変身くらいしないとマズくね? というかするべきじゃね!?』といっているのだよ」
「アツいなそれ!」
「だろ!!」
「その通りじゃ! 何故ワシらは気付かなかったのじゃ! 正義のヒーローたるもの変身することが絶対条件じゃというのに!」
「想像してみてくれ。……領土戦始まるだろ? 城壁上るだろ? 横一列にならんで敵がきて飛び降りる瞬間に、

変・身・! トーーーゥ!

とか叫んで飛び降りたらメチャクチャかっこよくね?」
「ヤケドするくらいアツいなそれは!」
「トラウマになるくらいアツいだろ!」
????? と疑問符を頭の上に浮かべまくヲタメンを華麗に置き去りにしつつ
テンション最高潮に盛り上がる二人。その二人の間に一人の人物が割ってはいる。
「あのーー…………」
ヲタレンジャーの最後の良心。風紀委員のハニーである。
「どうしたのじゃ?」
「どうした! 何か問題でもあったか!?」
「問題も何も…………そもそも完美世界に変身というシステムは存在しませんけど……?」
一人冷静にバカ二人に現実を説く風紀委員。
彼女は言う。「ゲームだからって無茶言うな」と。
しかし、同情せざるをえない。
相手が悪い。目の前のバカはただのバカではない。
「くっくっく。システムがない? 無茶を言うな? 笑わせてくれるぜ! なけりゃ創ればいいのさ! いくぜ…………変身!」
トウッ! と叫んで踊り始めたヤンキーはバックから「変幻カボチャ丸」という
使用すると5分間頭にカボチャを被った状態になるアイテムを取り出す。。
服を脱ぎ捨て、パンツ一丁になった状態でヤツはカボチャを大空高く放り投げ、
合体ロボばりのドッキングをした状態できめポーズをばっちり決め込む変態が一人。
「正義のヒーロー、カボチャ仮面参上!」
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
「ふっ……あまりのカッコよさに言葉も出ないようだな諸君」
あまりのアホらしさに言葉を失うヲタレンジャー。
ヲタレンジャーの猛者たちが絶句するほどの光景である。
周りの無言を遥か彼方へ置き去りにしながらヤンキーは暴走を開始する。
「さぁ、全員でカボチャ被れば新たな伝説の幕開けだ! 準備はいいかよてめーら!」
おいおい、さすがに無視できねぇぞこれ!? と危機感を感じたらしいその場にいた全員はヒソヒソと作戦会議を開始する。
「(え? これ全員ですんの!?)」
「(いやいやいや! これは実行したら恥ずかしすぎて死ねるって!)」
「(ワシ思うんじゃけど、あいつマジでバカじゃろ? というかバカじゃな)」
主題は『このバカをどうやって止めるか』にシフトチェンジしていたが、バカを止める方法はこの世にはない。
バカは死ぬまで止まらない。生まれ変わっても多分バカだからバカはバカなのだ!
その次の台詞でヲタレンジャーは嫌でも実感することになる。

世界チャット
発信者『ヤンキー』

「正義のヒーローの変身アイテム! 変幻カボチャ丸を大募集! 譲ってくれるそこの貴方は無料でください、お願いします!」

ヤバイ、このバカは本気だ…………!
戦慄するヲタメン達だったが、ヤツはもう止まらないというかあらゆる意味でダメだった。
ヲタレンジャーに羞恥プレイさせる為ならバカは無敵すぎた。

「はっはっは! カボチャ集めるのはこの私が責任もって担当するからさ! 心配無用だぜみんな!」
はははははー! とノリノリでカボチャ集めに走り去っていくバカを見守るしかできないヲタメン達は全員が真剣に考えながらこう呟いた。
「今日…………領土戦でなくてもいいかなぁー……」と。


領土戦開始まで6時間。
おやつタイムに差し掛かる午後3時。
その電話は掛かってきた。
職場からの緊急連絡である。
「はい、もしもし」
『あ、もしもし? 今日の夜勤でれないかな?』
「は?」
『いやね? ○○君が出れそうにないかもしれないって連絡がきてねー。もし今日の夜勤に入れるなら入って欲しいなぁー』
「つまりドタキャンですか。7時間前に連絡とは舐めてますね。分かりました、準備しておきます」
『よろしくねー』
ガチャンと電話が切れる。
領土戦参加不可能が決定した瞬間である。
そして暴れまくるヤンキー。
「がぁぁああーーー! あのゆとりふざけてんのかぁー! 今日の領土戦でれねぇじゃねぇかよ!」
壁を思いっきり蹴る反動で振り戻した足の小指をタンスの角にぶつけて悶絶するヤンキー。
モノに八つ当たりはいけない、と身をもって知ることになった午後3時。
ジジイに死亡確定のメールを出して、布団にダイブする。
無論、領土戦を楽しみにしていたヤンキーが枕を涙で濡らしたことは言うまでもない。

その2時間後。
眠りを妨げる一本の電話。
またもや職場(疫病神)からの緊急連絡である。
良い感じの眠りを妨げられて苛立つヤンキーであったが、電話に出なければ何も始まらないと判断。
「はい…………もしもし」
『あ、もしもし? やっぱり○○君出れるから今日は休みでいいわよー』
「…………」
ナニイッテンノコイツ? と寝起きの脳みそゼロ回転中の思考で聞き流しながら、頭を掻き続けるヤンキー。
「つまり……ドタキャンをキャンセルして、えーと、元通りになって、アイツが出るから私は休み、と?」
『そうそう、ごめんねー』
ガチャンと切れた電話。
通話の切れた携帯を見つめることたっぷり5分。
「ふん!」
精密機械で衝撃厳禁の携帯電話を思いっきりブン投げるヤンキー。
パリーンとガラスが割れた音が響くが部屋を真っ暗にしている状態である。ナニが割れたかなど分かるわけもない。
しったことがボケェー! と布団をかぶり、5秒後には寝息を立てるヤンキーであったが、
彼は気付くべきだった。
モノは大切にしなければならない、という子供でもわかるような初歩的なことを……


時刻未明。
目を覚ますヤンキー。
寝ぼけた目を擦りながら、真っ暗な部屋の扉を手探りで探して部屋を出て、熱めのシャワーで目を覚まし、
サラダとハムエッグと食パンとコーヒーを平らげ、食器を洗い、台所を片付け、歯を磨き、
軽いストレッチで身体を動かしながら「今、何時だろー?」と時計をみると、


午前00時34分55秒。


「……………………………………………………あっれー?」
ストレッチをしていた身体を立ち上がらせて、目をゴシゴシゴシゴシと普段より多く擦り、コメカミを押さえながら、
疲れているのかなー、と目蓋を手の平で揉むようにマッサージをした後、もう一度時計を見ると。


午前00時36分13秒。

時間が間違っているわけもなく停止するはずもなく、遅刻した事実は変わらない。
しかしおかしい。目覚ましはセットしていたはずだ。何故この時間帯までないも反応がなかったのか?
 問題の究明が最優先事項である。
「………………………………うむ」
首を大きく頷けると、ヤンキーは自室の扉を開けて電気を点ける。
そこには――――――。

―――バッテリーの外れた携帯電話と電池が飛び出して保護ガラスが粉砕されていた目覚まし時計が床にブチ撒かれていた。

両手で顔面を覆いながら天を仰ぎつつヤンキーは、
「おっと! 今日は朝までゲームできるじゃん! 休みサイコ―ヒャッハァーー!」
現実逃避に走り、考えることを放棄したのであった。

もちろん。
PCには一切触れず、朝までゲーム(XBOX)していたのはいうまでもない。


領土戦の次の日の朝。
時刻9時00分。
あーどうやって謝っかなー、と言い訳を考えながらヤンキーが完美世界にIN。
即ギルドリストを開いてメンバーを確認しようとした瞬間。
「待っておったぞヤンキー!!!!!!!」
ジジイが即反応しやがった。
一番メンドクサイ奴が最悪のタイミングでいやがるとりあえず謝るしか! と思っていると。
「おつかれ! 本当にお疲れさんじゃわいヤンキー!」
何故か非難されることなく、むしろ労われた。
どうやら昨日の昼に贈ったメールで「ヤンキーは仕事を押し付けられた」と誤解されたままらしい
とりあえず誤解を解こう、と思いヤンキーは「じ、実はさ……!」と喋ろうとするが、
「何も言うな! 何も言わなくていいのじゃヤンキー!!!!!!」
いつになくテンション高めのジジイがヤンキーの口を遮る。
「ワシには分かっておる! お前さんが今まで仕事を押し付けられていたことくらい分かっておるのじゃァーーーーーーーー!!!!!」
違います。朝までゲームしてました。
モニターの前で正座するヤンキー。
「い、いや、あのさ…………!」
「ワシはしっておる。お前さんがど・れ・だ・け・! 領土戦を楽しみにしていたのかということを知っておる! 
領土戦の時間帯にお前さんが悔しさに血の涙を流していたことをワシは心で感じておったのじゃ!!」
いえ違います。その時間帯は時計ぶっ壊してぐっすり寝てました。
ごめんなさいごめんなさい、と土下座するヤンキー。
「じ、実はな………!」
「ワシはお前さんが仕事をしている間、がんばって領土戦を戦ってきたからの! 
何も気にするでないぞ! 悪いのはドタキャンしたあのゆとり学生のせいなのじゃからな!」
それがトドメであった。
ヤンキーは心に楔を打ち込まれたようにうなだれた後、
「じ……実はその通りでさぁ! まったくドタキャンとかありえねぇよなぁ! 参っちゃうぜやってらんねぇよなー!!」
「全くじゃわい! ヤンキー本当にお疲れ様じゃわいの!」
ははははー、と笑い出す二人。
ヤンキー心が折れた瞬間であった。
涙である。ウソを吐くこととはこんなにも心を締め付けるのか、とヤンキーは心臓を抑えながら涙する。
労いの言葉を聴くたびにまるで心が引き裂かれるように良心が痛む。
もはや涙で前が見えません。
しかし事件はまだ終わらない。
その時、ジジイはこういった。
「ワシ決めた! あのゆとりに今度会ったら『ドタキャンしてヤンキーに迷惑かけんじゃねぇよ!』って直接言ってやるわぃ!」
「…………え!?」
ヤバイ、そんなことされたら寝坊したのがバレちまう!
超焦り始めたヤンキーは慌てながら急に大げさに動き出し、
「いやいやいや! ほらじっちゃん! 私はぜんぜん気にしてないからさ! 
大丈夫大丈夫もうぜんぜん大丈夫! フルマラソンできるくらい大丈夫だから!」
「いやいや! 奴は抹殺するべきじゃ! ヤンキーは全てワシに任せておけぃ!」
「いやいやいや! まぁ落ち着けジジイ。あのゆとりにもなにか理由があったかもしれないじゃんか、
ここは私たちが大人の対応で余裕を見せるべきだって!」
いつもとは違い、ヤンキーはまともな受け答えでジジイを諭す。
人間、心にやましいことがあると正論を振りかざすものである。
その言葉にこれまた誤解が誤解をまねき、
「わ、ワシは、ワシはいままでヤンキーは『機会音痴でへたれでいつも文句ばーっかり言っておるただのバカ』じゃと思っておった。
しかし! どうじゃ今日のヤンキーは! まるで聖者のようではないか!」
「……………………(このヤロウ)」
どうでもいいところでジジイの本音が出たが、ヤンキーもやましいことがあるため、口喧嘩をしてボロを出すわけには行かず、黙って聞く。
「もうホンっトーにヤンキーはダメな奴じゃッた! 昨日のカボチャ被るといい始めたときは
ワシ「あぁ、コイツもうだめじゃわ」と本気で思っておった! だってバカじゃしな!」
うんうん、とヲタメンが頷く中、ははは、と青筋浮かべた極上の作り笑顔でヤンキーが震えている。
「しかし! ワシは今日からこのヘタレの認識を改めるぞぃ! 
さようならヘタレバカ!
ようこそようやく普通のバカ!
ワシは、ワシはこのヤンキーの成長に感動を隠せないぞブワッチ!」
ジジイに思いっきりワンパンチするヤンキー。
どうやら我慢の限界だったらしい。
「ふ、ふふふ、ふふふふふふふ」
どんよりとしたオーラを纏いながらヤンキーは指の骨を鳴らす。
「ははは、もうダメ。我慢しようと思ったけどここまでバカにされるとダメだな。少しは謙虚に謝ってやろうと思っていたけどもうどうでもいいやー。
往生せいやぁハゲがぁあぁぁぁーーー!」
陽炎のようにゆっくり立ち上がりながらジジイは中指を立て、
「くくく、どうやら本性が現れたようじゃのぉー。所詮バカは死ぬまでバカじゃわいなぁ。
ここで死んでバカを卒業させてやるわぃこのへタレがぁーーーーーー」
そして、喧嘩が始まる午前9時半。
いつもの朝が始まったのであった…………

オチ。
つまるところアレだね。人間正直が一番ということだな。
はっはっはっは、すいませっっした!

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