名前。
世の中の全てには『名前』がある。
堅苦しい正式名称でも、愛嬌のあるニックネームでも、侮蔑を込めた差別用語も、視覚にモザイクをかける伏字でも。
そう。
全てにおいて、名前は呼称されてから死ぬまで刻まれる唯一の言葉だ。
否、
死んだあとでさえも残る生きた証とも言えるだろう。

だが、その中で一つだけ特別な名が存在する。
「称号」
その名前は唯一無二の意味を持つ。
「最強」を冠するものは最も強いというように。
「最速」を冠するものは最も速いというように。
「最高」を冠するものは最も高いというように。

故に、人は彼らをこう呼んだ。
「廃人」
この名は、決して差別でも侮蔑でも軽蔑でも見下しでもない。
バーチャルにおいてこの言葉が指すものは唯一つ。
「超越者」である。
その情熱は最強を超えて、社会人には実現不可能なIN時間を誇り、
課金の現金ブチ込みレベルは一般家庭の父親のお小遣いどころかボーナスを遥かに凌ぎ、
起床してから就寝まで「バーチャルがリアルです!」と言わんばかりの生活サイクル。
(個人的には廃人たちの視力の低下と食事の栄養バランスがとても心配だ……)
彼らを呼称するのにこれ以上の言葉などあり得まい。
レア装備など当たり前。
精錬+12でさえ奴らは難なくやってのける。
完璧なステータス振りによる装備装着にはある種の美しささえ伴っている。
無論、廃人の誰もが超自分主義者。
「おれ強ぇー」を体現する一匹狼。
「オレ凄ぇー」を主張する自己中。
「オレ一番!」を誰にも譲らない。
これを総じて「廃人」と称するのだ!

だが、何事にも例外が存在する。
例外過ぎるギルドが唯一つだけ存在する!
故に、
ベテルギウスの住人は誰もが尊敬と畏怖を込めて、このギルドをこう呼んだ。

超エリート廃人集団
粋恋
(注 悪意はございません あくまでネタです)

エリートに挑むヒーローは果たして一矢報いることはできるのだろうか!?
さぁ。
今回の事の顛末を語るとしよう。


9月18日。
午前10時。
あるシステムメッセージがベテルギウスに流れた。
「ヲタレンジャーは粋恋に宣戦しました」
それと全く同時にバカとハゲが叫び始める。

世界チャット
テラキモス長老&ヤンキー

「ワシらはあの高レベル集団に挑む! ワシの夜の法剣+3が火を噴くぞぃ!」

「はっはっは! 私の出来立てホヤホヤのイズ―メイル(軽装)の硬さをさっそく試すときが来たようだな!」

その時、ベテルギウスの住人は心の中でツッコんだ。
お前らそれ全く通用しないだろ、と。
精錬を+3にしたところで大して威力は上がらない。
ましてや軽装が堅いわけがない。
全身レア装備を高精錬で固めている粋恋に対しての挑発にしか聞こえない世界チャット。
…………嗚呼、ベテルギウスは今日も平和です。

「で、じじじよ」
「じじじってなんじゃ!?」
「ただの打ち間違いだ。……それでじっじじよ」
「じっじじってなんじゃよ!?」
「だから打ち間違えただけだって。それでハゲよ」
「誰がハゲじゃ!!!!」
「お前だよ!!!!!!」
「よく見てみんしゃい! ヒゲはボーボーじゃろうが!」
「髭はあっても髪の毛皆無じゃん! サ○エさん見てみろ。波平さんだって最後の一本残してるだろうが」
「そ、それは…………! あぅあぅあぅ!」
「動揺してる、動揺してるぞジジイ」
「勘違いするでないわこのヘタレが!」
「はい?」
「あれはハゲではないのじゃ! 自ら髪の毛という欲望を無くし、太陽の光さえも反射し、
光り輝くハゲの道を選んだワシらハゲラーを甘く見るでないわ!」
「モノは言い様だな。…………というかハゲラーってなんだ?」
「あんな未練たらしく髪の毛一本残して『自分はハゲではない!』と公言するヘタレ! それこそまるでヤンキーのようではないか!」
「そうだな。私だったら間違いなくアートネ○チャーに相談に行くよ」
「ハゲろよ!」
「嫌だよ! どれだけハゲに誇りをもってんだよ!?」
「ハゲが定着してほかの髪型にできんワシの苦悩、開き直らねばやっておれんわぁー!」
「本音がダダ漏れーーーー!?」

相変わらずの荒れ放題なヲタレンジャーギルドチャット。
最近、自重して白チャを控え始めたジジイとヤンキーであった。
会話は戻る。

「それで世界チャ叫んだのはいいけどさ、粋恋ってどんなギルドなのよ?」
「うむ、ワシも詳しいことはよく知らん! けどこれだけは言える。ぶっちゃけ超廃人」
「ほう?」
「装備とか今度プレイヤーデータで見てみ? 髪の毛抜け落ちるほどビックリじゃわぃ!」
「いや……おいハゲ」
「ま、アレじゃの。どんだけつえーか見てみようではないか!」
「その前にメンバー増やすほうが先だと思うのは私だけか…………?」
「まったく……一人では何もできんヘタレの言いそうな台詞じゃな! ワシは恥ずかしい!」
「あれ……? まともな事言ったつもりなのに何で責められてんの私?」
「お前がそんなにヘタレじゃからメンバーが増えんのじゃぞ!?」
「メンバー勧誘しねぇアンタにだけは言われたくねぇよその台詞!」
「ルームだけはいつも立ててあるわ!」
「告知しろって言ってんだよ!」
「ラッパがもったいないじゃろが!」
「勧誘するときに使わないでいつ使うんだよ!?」
「ワシのような常識人がヤンキーみたいに世界チャ叫んでると思ったら大きな間違いじゃ!」
「おい、じじい」
「なんじゃ?」
「世間の常識人の皆様に謝っとけ」
「ハゲでごめんなさい」
「そっちじゃねぇだろが!?」
「フォフォフォ!」

かくして、
粋恋VSヲタレンジャーの対戦が決定。
ほかのギルドではどこに攻めるか領土に参加できるかどうかなど、綿密な作戦会議が立てられるが
、ヲタレンジャーではそんな高尚なものは一切なし!
ヲタレンジャーの領土戦の流れはこうだ。
「ジジイ、今週どうするよ?」
「んーー。そうじゃのー…………」

ポチッ。
『ヲタレンジャーは粋恋に宣戦をしました』

「粋恋とかどうじゃ!?」
「いや、もう宣戦してんじゃねぇかよ!」
「ヒャッハーーーーーーー!!!!」

こんな感じです。
ヲタメンには一切、相談告知報告無し!
ジジイとヤンキーが勝手に突っ走って突撃し、
「お前さんたちちゃんと付いて来るのじゃぞ!」
「ハッハッハーー! 追いつけるもんなら追いついてみろやぁーー!!!!!」

と、メンバーそっちのけで暴走するギルマス&サブマス。
よく半年も持っていると感心してしまうヤンキーであった。


9月19日。
時刻20時ジャスト。
領土戦1時間前。
「クックック、クハハハハ、ハァーハッハッハッハ!!!」
いきなり笑い始めるヤンキー。
それを絶対無関係の距離で生暖かく見守りながらヲタメンはヒソヒソと
「またこの人寝てなくてハイテンションなのか……」
「いつものことだけどカオスな予感……」
「長老様はどうせ遅刻だろうしね……」
はぁぁぁぁ、と肺の空気を全て吐き出す勢いで溜め息を吐く皆。
それをよそにヤンキーがいつもの如く、暴走し始める。

世界チャット
発信者ヤンキー

「おっしゃ! ボッコボコにされる準備はできてるぜ! 粋恋かくごしやがれぇ!!!!!」

「「「だからボッコボコにされてどうするんだよ!」」」
ギルメン、フレ、その他世界チャ聞いた人達から総出で突っ込まれるヤンキー。
肩を透かしてヤンキーは「おいおいおい、少し考えてみろよおまえら?」と前置きをする。
数秒の空白の後、ヤツは。
「だってどう考えても勝てるわけねぇじゃんよ!!!!」
本音をダダ漏れでわめき散らすのであった。

逆ギレである。
なんか文句あんのか、あぁ!? と誰がどう見てもヤンキーの一人逆ギレである。
「ジジイはどうせ遅刻だし、あんな廃人集団に勝てるわけがねぇし、こっちは寝てねぇし、ジジイがハゲだし!
 どこをどう考えたらヲタレンジャーの勝てる要素があるわけよ!?」

ヲタメン突っ込みタイム。
「とりあえず、長老様のハゲは関係ないと思いまーす」
「ヲタメンバーの人数が足りないと思いマース」
「領土戦している意味が意味不明だと思いまーす」
「ヤンキーがヘタレだからじゃろ? フォフォフォ!」

「貴様ら、やかましいわぁ! あとへタレとか関係ねぇよ、このクソジジ、イ…………が?」
そこでピタリ、とメンバーの時間が止まる。
「…………(ヤンキー)」
「…………(ハニー)」
「…………(クルミ)」
「…………(ジジイ)」

目をゴシゴシと皆が擦り、目の前の人物を確認する
「みんな、突然黙ってどうしたのじゃ?」
ジジイが発言する、
その台詞を皮切りにビシィッッッッ!とヲタメンが一斉にジジイを指差しし、お化けでも見るように叫んだ。

「「「で、ででで、出たぁーーーーーーーーー!!!!!!」」」

「お爺様が30分前出勤!?」
「今日は遅刻してない長老!?」
「おばけ、お化けがでたぞぉーー!」
「やべぇ! 今日俺たち勝っちまうんじゃねぇ!?」

世界チャット
発信者ヤンキー
「ちょ、みんな聞いて聞いて! ジジイが領土戦30分前に現れやがった! 
台風が日本に直撃してるのって絶対ジジイのせいだぜ!?」

長老突然の降臨に慌てふためくヲタレンジャー。
気分は、宝くじが外れたと思って捨てたら実は大穴だった!? そんな気分である。

「ちょ、おまえさんたち! 好き勝手言い過ぎじゃろ!?」
怒鳴るジジイにヤンキーが反論する。

「あ? フザケンなジジイ。テメェが時間通りにきたらネタになんねぇんダヨ。なに普通に登場してんだこのハゲ。
もう少し考えろや、思いつき=本能で動いてんじゃねぇぞこのダボが!」

「あんじゃと? 誰よりも早くINして領土戦に備えるのはギルマスとして当然じゃろうが。
なにトチ狂っておるのじゃこのヘタレキングがっ。ハゲなめんなよ!?」

「言っとくけど、30分前にINしてもハゲが一番遅いからな? そこんとこちゃんと理解してるか? 
というかお前今まで一番早く来た実績とかないからな? 寝ぼけてんのか? 叩き起こしてやろうか? むしろ殴らせろやぁぁぁ!!!!!!」

「ところでやんきーー」
「はい?」
「今起きたとこなんじゃが、風呂入ってきていいかの?」
「ダメに決まってんだろうが!」
「よく考えてみるのじゃヤンキー。ワシ風呂に入るじゃろ? けどINしてるから遅刻していることにはならんじゃろ? 
風呂から上がったら領土戦は始まってるけど、あら不思議! ワシ遅刻してない! こんな感じでどうじゃろ!?」
「殴る! 粋恋よりさきにこのハゲを殴る!」
「ひゃっはーーー」

9時ジャスト
そんなこんなで準備完了するヲタレンジャー。
最後にヤンキーは冷静に戻り、粋恋戦の意気込みを叫んだ。

世界チャット
発信者ヤンキー
「私…………この領土戦が終わったら、衝動買いしたXBOXで徹夜するんだぁ…………」

わざわざ死亡フラグを立てるヤンキー。
21時現在、24時間起動中。そろそろ良い感じに目の前がクラッときてます。
なにせ送られてきたササの6割が「寝ろよ!!」だったからね!
ちなみにのこり4割はXBOXの話題だったYO!

もう叫び終えてやり尽した感があるヤンキー。
ふと周りを見ると、
「あれ? 皆もういないぞ?」
周りの人達からは
「ヤンキー早くいけよ(笑)」
時刻は9時2分
すでに領土戦始まっていた!
「おっと、やべぇやべぇ! 今すぐ行くぜみんな!」

速攻でテレポート師から戦場に入る。
領土戦スタート!

「はやく城壁に上らなくては!」
ヤンキーが戦場に入る。
しかしそこで見た景色は死屍累々。
ヲタレンジャーが惨殺されている壮絶な光景だった!
「あれ? もう飛び降りたのかよみんな!?」
「や、やんきーよ……」
息も絶え絶えなジジイが這いつくばりながら、近づいてきた。
「ジジイ!」
「こやつら、半端では…ない…わ。ワシらが戦場に入った頃にはす、でにクリスタルを叩いておった…わ」
「ヲタレンジャー名物『城撃からトウッ!』はどうなったんだよ!?」
「フッ……。そんなもの通用する相手ではないのじゃよ、城壁上る前にぬっ殺されてしまったわいフォッフォッフォ……(ガクッ)」
「ジジーーーーーーーーーーーイ!」

なんという驚異的な空気の読めなさか!
ヒーローの登場シーンさえ待てないとは悪役の風上にもおけない廃人共である!
(そもそも領土戦を勘違いしているヲタレンジャー。粋恋様のほうが真っ当なルールに則っております)

ゆらり、と陽炎のように立ち上がるヤンキー。
「貴様ら……私を倒すまでヲタレンジャーは不滅だぁ!!!!」
ジジイを放って突撃するヤンキー。
「かかってこいやぁーーーーーーー!」
むしろかかってこいとか言っているくせに突撃しているヤンキー!
「ぐはぁーーーーーー!!」
あっけなく即死するヤンキー!
ヲタレンジャー敗北の瞬間であった。

システムメッセージ
粋恋はヲタレンジャーに勝利しました。


「お疲れ様――!」
「やっぱり無理だったね!」
「粋恋つえぇーーー!」
ヲタレンジャー各々の感想を発言しながら反省会。
ヤンキーは言う。
「やっぱ、クエこなしてレベル上げないと無理だね!」
「そうじゃの!」
「石クエとクリップと世界チャの挨拶だけではダメだね!」
「世界チャは明らかにお前さんだけじゃがの!」
「これからは夜も叫ぶことを心掛けようと思います!」
「うむ。まったく前に進まんと思うがガンバるのじゃぞ!」
「はっはっはっはっはー!」
「フォフォフォフォフォ!」

かくして
エリート集団の強さを目の当たりにしたヲタレンジャーはさらに強くなることを心に誓い、レベルを上げるためにクエストに旅立つのであった。

「よし! いまから衝動買いしたXBOXで徹夜してテイルズをクリアするわ!」
「おまえさん、悩みとかなさそうで本当に羨ましいのぉ……」
「いやぁ、それほどでもないけどね!」
「褒めておらんわぁ!」
「今からボス戦だから返信できないからよろしく!」
「ばーかばーかヤンキーのへタレ!」
「…………(必死にボス戦)
「(やべぇ……へタレに反応しないとは! ヤンキーは本気でボス戦に集中しておる!)」
「…………(ちょっと負けそう!)」
「んじゃ、ワシおちるね!」
「お爺様、お疲れ様ですぅー」
「長老おつ!」
「またね長老―!」


5分後。
「だれがヘタレだとこのハゲ!!」
しかし、悲しいことにその遅すぎた突っ込みに反応するハゲはどこにもいなかったのであった。




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