戦いには大きく分けて2種類ある。
始まる前に決着が付いている戦いと、
戦ってみないと勝敗が判らない戦い。
この二つである。
今回の乱舞戦は前者。
つまりは100%の準備を持って99%まで勝利を高める。
(余談ではあるが、ヲタレンジャーにとって勝利とはどれだけ楽しめるかである)
今日はそんな裏話を一つ語るとしよう。

「とまぁ、そんなわけでして、新しく入った人達に領土戦を体験させてあげたいのです」
「ふむふむ」
「投石器もバグで使えませんし、全力で適当に遊んで終わらせようかと私は思っています」
「ふむふむ」
「つきましては、乱舞様にもご協力をよろしくお願いいたします」
「わかりました。こちらこそよろしく」

ヤンキーの恒例「相手ギルドへのご挨拶」
ヲタレンジャーでは領土戦をするとき、相手への礼儀を忘れない。
顔の見えないコミュニケーションだからこそ、挨拶は大切。
最後に笑顔で終わらせたいですからね!

そして、一通りの挨拶がすんで、もちろんこのまま話しが終わるわけもなく。
「私としては、槍持った弓使いさんとジジイのリターンマッチを是非!」
「ほう!」
「ジジイのことですから『城壁からトウッは絶対やる!』といいますので、そこはご了承下さい」
「了解です!」
余談ではあるが、ヲタレンジャーではどれだけバカ騒ぎできるかが問題である。
そして、どれだけ相手をバカ騒ぎに巻き込むかである。
人生楽しめこのヤロウ。
だいたい、ジジイに付き合ってたら真面目になんてできるか!
ツッコミだけで精一杯。
ボケるのもいい加減にして欲しい。

そんなこんなで挨拶は終了。
ヤンキーはジジイに報告しに行く。
「今帰ったぞ、ジジイ!」
「うむ。ごくろうじゃわい!」
「あとは土曜の夜まで待つだけですね!」
「うむ! 遅刻するなよヤンキー」
「それはアレか? この前のかくれんぼの時の嫌味か? というかジジイにだけはその台詞は言われたくねぇよ!!!」
「あんだと? やんのかへたれ?」
「上等だ。かかってこいやハゲ!」
「あん? このへたれが。誰に向かってハゲだと!?」
キラリーン、とハゲを光らせるジジイ。
「いや、私は間違ったことは言ってないぞ、ハゲ」
「頭に髪の毛がないだけじゃろうが!」
「それを世間一般的にハゲって言うんだよ、このハゲジジイ!」
「世間を知らんお子ちゃまが世間一般的とか言っても説得力皆無じゃ!」
「子ども扱いすんな!」
ちなみに。
『もう子供じゃないんだから』的な台詞を言った時点で子供であることに気付かないヤンキー。
若さゆえの過ちである。

一通りの挨拶(喧嘩?)を終えて。
「ではジジイ。後の連絡は任せます」
「うむ。ご苦労じゃわい」
「遅刻すんなよ。ジジイ」
「ワシが遅刻? 彗星が地球に衝突するよりありえる話じゃわい」
「ジジイが時間通りに来ることは天文学的数字なのか!?」
「冗談じゃ♪」
「いや、冗談に聞こえねぇよ・・・・・」
そんな一抹の不安を抱きつつ、
やはり、事件は起きるのであった。

領土戦の当日。
詳細を明記。
土曜の夜、21時6分スタート。
集合場所。
祖龍の城南テレポート前。
30分前には集合せよ。
それがギルドリストのコメント欄の連絡事項である。

20時ジャスト。
ヤンキーIN。
時間さえ間違えなければ、ヤンキーは誰よりも早く集合する。
いや、決してかくれんぼの時の言い訳じゃありませんよ?

時間が経過する毎に続々と集合し始めるメンバー達。
無論、領土戦参加は自由なので強制はしない。
その時点で参加者は5人。
遅れて可能性もあると報告を受けている以上、時間厳守はしていなかった。
あぁ、していなかったともさ!

集合時間になった。
以下ギルドチャット抜粋。
発信者ヤンキー。
「よし! 記念に集合写真を撮りましょう!」
初めての領土戦に盛り上がるメンバー」
「一列に並んでください!」
その場にいた応援のフレも並ぶ。
「あぁ、真ん中はジジイなので空けておいてください」
その台詞にメンバーは無言。
不承不承に真ん中が空く。
「では撮りますよ〜〜。はいチーーーー」
「あの・・・・・ヤンキーさん・・・・」
一人のメンバーがおずおずと手を上げる。
「うん? どうしました?」
ニッコリと笑顔で返答するヤンキー。
「ひぃ!」
その笑顔に周りのメンバーは後ずさる
「どうしました、何か問題でも・・・?」
『問題』の部分をやたらと強調するヤンキー。
その笑顔の額には青筋がいくつも浮かんでいた。
「そ、そそそ、その・・・!」
彼は震える指でポッカリと空いている真ん中を指差して、言った。
「長老さんが・・・どこにもいないような・・・?」

「また遅刻か、あのハゲはぁぁぁぁあぁーーー!!!!」

上着を引き裂いて暴れるヤンキー。
八つ当たりに近くの灯篭に頭突きし始める。
「遅刻確率100%か? お前はどんだけ遅れてくれば気が済むんだ? 
というか集合時間をジジイが決めておいて遅刻ってなんだ!? 
どんだけ不安にさせたらジジイは時間通りに来るっていうんだよ! 
あのジジイの脳みそはハゲと同様にツルッツルかぁぁ!?」

暴れ始めるヤンキーを静かに傍観するメンバー達。
後にメンバーは語る。
「いや、なんか見ていて飽きない人ですよねww」
「メンバーだけど一歩引いて観察してますww」
「特等席で見られる分、サブを入れた価値があるww」

ジタバタ暴れても時間は過ぎていく。
すでに20時50分。
開始まで15分を切っている。
「あわわわわわわわ」
混乱状態に陥るヤンキーはそこらを走り回って、仕舞いには「あの空の彼方へ」の集合場所にまで特攻する始末。
しかし、その手前で引き返すあたりがヤンキーのへたれっぷりを表していた。
いや、だって迷惑をかけたらダメじゃん!
そんな真っ当な正論で言い訳をする辺りがへたれなのである。

ちなみにほかのメンバーは。
「領土戦ってどこから入るの?」
「テレポート師のところでしょ?」
「えーと、とりあえず、城壁に上ればいいんでしたっけ?」
「そういってましたね〜〜」
などと、各自の判断で作戦会議中である。

ジジイは現在進行形で遅刻中。
ヤンキーは大絶賛混乱中。
役に立たないギルマスと参謀であった。

時刻は21時ジャスト。
「とう!」
テラキモス長老IN。
「すまん。遅れたわい・・・テヘッ♪」
「ジジイ、話は後だ。とりあえず、手短に説明!」
さすがのヤンキーもブチ切れる前に説明のほうが先と判断する。
「話は簡単じゃ」
一拍の間を置いて、ジジイは言った。

「城壁から全員でジャンプじゃ!」

「お前ちょっとそこの裏まで来い」
やはりブチ切れるほうが先と判断する。
ジジイを引きずって人気のない方向に歩いていくヤンキー。
その背中に手を振りながらほかのメンバーたちは。
「先に入ってよっか?」
「そうしましょう」
「とりあえず、放置でいいですよねあの二人」
各自の判断で動くメンバーたち。
そう。
ジジイがあえて不甲斐無い行動をすることによって、メンバーたちの自主的な行動を促すというジジイの策略!
知らず知らずの内にメンバーは成長しているという壮大な計画!
そう。
ジジイの道化っぷりは最初から全て計算済みの仮面だったのだ!
「遅刻してないもん。集合時間に間に合わなかっただけだもん!」
「やかましいわ、テラキモス!」
すいません。嘘です。そんなはずがねぇよ。
だって、あの人のあれは素だからね!


9時6分。
領土戦開始!!
「ヤンキー城壁まで走るのじゃ!」
「はいはい」
なんだかんだ言いながら城壁に上るヤンキー。
全員、それに続いて、無事城壁に並ぶ。
この時点で参加者は9人。
ヲタレンジャーでは参加者を募集中です!
どしどし応募してくれよな!

並んでいるとしばらくして、乱舞の妖精さんがふらふら〜〜とやってきた。
事前に挨拶しておいてヤンキーのお友達である。
要約するとこうだ
「ほかの領土戦も重なっているので、ほかのメンバーが来るまで少々お待ちを♪」
後の細かい説明は割愛させていただく。
その間に作戦会議を決行。
「つまりじゃな、跳んだ後の『トウッ!』は重要だと思うのじゃ!」
「長老! 回転はどうしますか!?」
「もちろん、二回転じゃ! 可能なら三回転半での!」
「ほかには!?」
「着地と同時に踊りも入れれば完璧じゃわい!」
「なるほど!」
「これで完璧じゃわい!」
ノリノリのジジイとノリを合わせているメンバー達。
ヤンキーは努めて冷静に突っ込んだ。
「お前ら全員脳外科にでも行って来い。いますぐ!」

緊張皆無である。
そう。
初めての領土戦にメンバーたちが緊張しないようにとジジイがバカ話でその場の雰囲気を和らげているのだ。
さり気ない気配りができるジジイ。
さすがはギルマスである。
それを気付かせないあたりがニクイ演出である。
そう。
ジジイはあえてピエロを演じているのだ!
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」
ごめんなさい。これ以上ウソが吐けません。
だって、最初の領土戦からこんな調子だもん、このジジイ。

続々と集まり始める乱舞メンバー。
しかし始まる気配は一向に無い。
仕舞いには、敵味方入り交えての集合写真を撮り始める始末である。
そして、ジジイはいつのまにか暗殺されていた。
ザマーミロである♪

そして、全員が集合する時。
ヲタレンジャーはジジイを中心に城壁から飛び降りる!


「トウッ!(×9)」

領土戦開始!
ヲタレンジャー平均レベル50前後。
乱舞平均レベル転生(90)以上。
絶望的な戦力差である。
もちろん、着地と同時に踊っていたジジイとその他は全滅である。
各職業最強スキルの連発。
一瞬の命であった。

それでも特攻していくヲタレンジャー。
突き進めば突き進むほど、メンバーたちの死亡回数が跳ね上がっていく。
限界まで駆け上がっていく疲労。
圧倒的に立ちふさがる乱舞の精鋭達。
ここに到り始めてヲタレンジャーの面々は始めて気付く。

勝てるわけがない・・・!

そう、勝てるはずもない。
転生すらしていない雑魚では比べるまでもない。
アリは象に踏まれるのが定め。
だが、しかし―――


―――アリにはアリの意地がある!!


ジジイが叫ぶ。
「ヲタレンジャー! ワシのところに集合じゃ!」
即座に集合するメンバー。
乱舞は追撃などしない。
追撃などという無様な戦いは、王者の誇りが許さない。
20メートルの距離を置き、静観する乱舞を尻目に円陣を展開する。

ジジイによる作戦会議(白チャ)が開始される。
「よいか? 分散したところで各個撃破されるだけじゃ。ならば、例のアレでいくしかない!」
ヤンキーの目が驚愕に開かれる。
「ま、まさか・・・アレをつかうというのか、ジジイ!」
「ここで使わずどこで使うというのじゃ、ヤンキー!!」
「し、しかし・・・! あれはまだ未完成の筈だ! まだ一回も成功していないんだぞ!」
「土壇場でこそヒーローは真の力を発揮する! 最凶のピンチを最高のチャンスに変える…………それがヒーローじゃろがぃ!」
ザバーン、と波しぶきを打ち上げられる背景とBGMと共にヤンキーが崩れ落ちる。

ほかのメンバーには何のことかサッパリと首を傾げている。
そもそも当のヤンキーでさえ『アレ』の正体を知らないのである。
ほかのメンバーが知るわけもない。
ようは領土戦の雰囲気に酔ってノリでヒーローっぽい台詞を言いたいだけなのだった。

「で、結局『アレ』って何?」
ようやくメンバーが突っ込む。
「ふむ。ようは分散してダメならその逆じゃ。一点集中突破するのじゃ!」
「引いてダメなら押してみろの論理ですか?」
「うむ。ワシを先頭に後ろに一直線に並んで突き進んでいく・・・」
ヤンキーはその作戦名を叫ぶ。
「ジェットストリームアタックか!」

説明しよう。ジェットストリームアタックとは!
某有名アニメ「ガ○ダム」の代表的な敵「○い三連星」がつかった必殺技である。
縦一列に敵陣に突っ込み、
一列目が盾で鉄壁の防御し、
二列目がバズーカで道を開き、
三列目でサーベルで斬り殺す(だったっけ?)。

ようは必殺技である!
ヒーローなら必殺技の一つや二つ持っていて当たり前!
ジジイのハゲ然り、ヤンキーの世界チャ然り!
そして合体技ならこれしかない!

「ジェットジジイアタっーーークじゃ!」

「では、みんな。私の合図で一斉に突撃だ!」
頷くヲタレンジャーの一同。
世界チャット
発信者ヤンキー

「ジェットストリーム(ジジイ)アタッーーーーーーーーーーーーーク!!!!!!」

一列に突撃していく我らヲタレンジャー!
先頭のジジイが妖獣のトラに抜かれた!
続いてヤンキーの高速移動スキルでブッチギル!
次々と抜かれていくジジイ!
しかし、ジジイは魔法で距離を取るため、遅れるのは先刻承知!
ヲタレンジャー全員同時攻撃。
ジェットジジイアタックが炸裂する!

しかし、ヲタレンジャーの面々は忘れていた。
乱舞には最凶の範囲攻撃があることを・・・!
すでにスキルの発動を終えた乱舞のメンバーの顔が走馬灯のようにゆっくりと流れていく錯覚。

炸裂する乱舞戦士のドラゴンバースト!
降り注ぐ乱舞魔道のレイニーフレア!!
乱れ落ちる乱舞弓使いのアローレイン!
解放する乱舞妖精のボイズンストーム!

各職業の最強スキルがヲタレンジャーの全員を血祭りに上げる。
土煙が晴れた後。
ヲタレンジャーの前に広がるのは灰色の世界(死亡時のグラフィック)だった。


その時点で1時間30分が経過。
すでにやり尽くした感が漂ってグダグダになりつつあった。
「そろそろ、解散するかの!」
ジジイの一声に全員が頷く。
ヤンキーが叫ぶ。
「全員整列!!」
ヲタレンジャー、乱舞共々横一列に平行線で並ぶ。
「ヤンキー! 〆るのじゃ!」
「では、本日は『乱舞』の皆さん。領土戦ありがとうございましたーー!」

「ありがとう(×8)!!!」

まるでスポーツのような爽やかさ。
こうして、ヲタレンジャーの体験領土戦は終了した。
乱舞の皆さん、本当にありがとうございました!
これからも、よろしくお願いします!


追伸。
槍持った弓使いさんが不在でジジイのリベンジならず!
代わりに弓持った戦士さんにジジイは秒殺されてました!


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