ヲタレンジャーによる始めてのギルドイベント。
「かくれんぼ」
その裏で潜むヤンキーの暗躍。
ジジイにドッキリ(抹殺)を仕掛ける為、
ヤンキーは、行動を開始する!


・・・・・・・・おまえら、本当は仲が悪いだろ?

さぁ、黒歴史のはじまりはじまり〜〜〜〜〜♪


5月7日。
水曜日。
時刻は夜中の3時40分。
「だ〜〜〜か〜〜〜〜ら〜〜〜〜〜!!!」
「なんでじゃい、このアンポンタン!!!」
激しい怒号が二人の間で飛び交っていく。
「まったくジジイは何にもわかってねぇな! だからハゲ(リアルではロン毛♪)なんだよ!」
「お前はほんっとーに世間知らずのガキじゃわい!」
交差する視線の中間で火花が炸裂する。
説明など要らないと思うが、あえて言おう。
ジジイとヤンキーの二人である。
「おまえはバッカかぁ!!」
「こんのお子様がぁ!!!」
今回の二人が対立している最大の理由はギルドイベント「かくれんぼ」の運営についてである。
二人はリアルで知り合いなため、チャットより実際に話したほうが早いのである。
つーか絶賛仕事中。
さ、サボってませんよ?

二人は高速で仕事しながら、話し合いを続ける。
普通なら、喧嘩上等な台詞が飛び交っているが、二人にとってはそんなもん
「おう!」
「ちっす!」
くらいの挨拶と同レベル。
つまり・・・・・
「ばーかばーかばーか!!」
「ハゲハゲハゲハゲハゲぇぇ!!」
そんなことしか言ってないから、話なんぞちっっとも進まないわけである。
喧嘩するほど仲が良い二人なのであった♪
た、多分な!

ぜぇはぁ、と息を切らす二人。
「さて、そろそろ真剣に話を戻しましょうか、ジジイ」
「そうじゃの、明日はワシが休みじゃから、話せんしのぉ」
「まったく。ジジイに付き合うといつも話が脱線しますよ」
「それはワシの台詞じゃわい」
「あんだと?」
「やんのか、コラ?」
言っているそばからこれである。
ジョーク無しでは成立しない会話。
グダグダである。
はっきり言うと、ジジイと知り合って真剣な会話なんて一度しかしたことがない。
テラキモスクオリティ恐るべし!

こんな会話をしながら、結局。
「ジジイが勝手に決めろよ!」
「後で報告してやるワイ!」

話は一歩も進みませんでした。
ごめんなさい!


5月9日。
かくれんぼ当日。
7時45分。
仕事が終わり、フラフラになりながら帰宅。
HPが1しかない状態。
普通なら、風呂に入って飯食って寝るだろう。
しかし、ここがオンラインゲームの恐ろしいところ。
まず、自室に戻る。
次に、椅子に座る。
最後に、PCの電源ON♪
パーフェクトワールドの開始である。
どっぷりと毒されているな、私たちはww

とりあえず、石クエをするヤンキー。
石を届けて、10分の待機時間に世界チャを叫ぶ。
ヤンキーの平日の行動パターンを忠実に遂行していた。
フラッと視界が霞んだ。
昨日は無理をしすぎたせいだろう。
身体が言うことを利いてくれない。
石クエを終わらせて、眠ろうと考えていたとき、ハッと思い出す。
「あ! そういえば、かくれんぼはどうなったんだろうか?」
ギルドリストを確認する。

コメント欄。
「金曜夕方・・・6時にかくれんぼ、参加者は祖龍西に集合せよ!」

(夕方の6時かぁ・・・)
ぼんやりと時間を確認しながら、計画を立てる。
「(あ〜〜、今は誰も居ないから話せないし、5時くらいにINして皆にドッキリを話せばいいかなぁ・・・・?)」
ぶっちゃけ、眠気には勝てない。
とっとと風呂に入って、寝ることにしたのだった。

それが、あんな結果を巻き起こすことになるなんて。
ヤンキーは一生後悔することになることを
この時点では、知る由もない。


16時ジャスト。
ヤンキー起床。
風呂に入り、目を覚ます。
ご飯を食べる。
歯を磨く。
軽くストレッチ。
飲み物を手に自室にGO!
完璧である。
時刻は5時ジャスト。

これであとはジジイドッキリを今度こそ成功させてジジイを一泡吹かせてギャフンと言わせて
遅刻させないように釘を刺して二度とバカを言わせないようにしてはっはっは最高の日に
なりそうじゃないかこのヤロウいけねヨダレが垂れてきましたよヲタレンジャー最高だぜ
今回は失敗しねぇからよ絶対に腰を抜かせてやるぜあのジジイ
クックッククハハハハフハハハハハァーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!!!」

勝負の世界において、一番残酷な瞬間を皆は知っているだろうか?
私はこう思う。
スタートラインに立った瞬間だと。
誰でも自分が一番だと思い、スタートに立つ。
始まらなければ、平等だ。
否、「均等」だと言えるだろう。
誰だって始めから自分が負けると思う人間はいない。
だからこそ自信がある。
故に、誰も気付かない。
勝利することよりも、敗北するほうが簡単だという事実に。


IN。
さて、根回しの為にギルドリストに誰がINしているかを確認する。
すると、
ギルドチャット
発信者
テラキモス長老。
「ワシを見つけられるものなら見つけてみんしゃい!!」

ヤンキー「………………………………」
あれ? なんだ今の?
ジジイがこんなに早くINしているなんてありえないことである。
一瞬、耳(いや、この場合は目?)を疑うヤンキー。

「ひゃはーー!! ワシはここじゃわい!!」

おかしい。
なんだこのチャットは?
もしやバグったか!?
いや、しかしこの人を小バカにしたような話し方は間違い無くジジイのそれだ。

ヒソヒソと聴こえる話し声。
「(しっかし、ヤンキーさんが遅刻かよw)」
「(長老さんが珍しく早起きw)」
「(ところでドッキリって何時やるのかしら?)」

―――ヤンキーよ。

どこからか、声が聞こえてきた。
それは優しくも厳しい声で囁きかけてくる。

―――ヤンキーよ。認めるのじゃ。

「だ、だれだ!?」
辺りを見回しても誰も喋ってはいない。
しかし、その声はヤンキーの心臓を貫くように直接届く。

―――いい加減に認めるのじゃ。お前は

遅刻

してきたという事実をのぉ!!」

「遅刻」の二文字が重く圧し掛かる。
地面に四肢をつき、倒れるヤンキー。
…………そうだ、いい加減に認めよう。
その声は紛れも無く、自分自身の心の声。
耳を塞いだとしても、直接頭の中に叩き込まれていく。
だから、認めなくてはいけない。
認めなくては二度とヤンキーは前に進めない。
目を逸らしたところで、「それ」は間違えようもなく映っている。

ギルドリスト
コメント欄。
「金曜夕方16時にかくれんぼ、参加者は祖龍西に集合せよ!」

つまり夕方の4時。
ヤンキーのINした1時間前には開始している。
勘違いとは思えない。
だって、ギルドメンバーが全員オンラインしているってギルドリストの右端に書いてる・・・・

ようは、ヤンキーの勘違い。
16時を6時と見間違えたのだ。

モニターの前のヤンキーの頬には一筋の涙がキラリ。
涙だった。
オトコ泣きだった。
魂からこぼれたヤンキーの全てが凝縮された悲しみの涙だった。

そう。
ヤンキーは理解していた。
ドッキリは失敗したという事実を。
もう全てが手遅れだった。
せめて、謝ろう。
ヤンキーはラッパを持って叫んだ。
祖龍の西(完美世界の中心)から悲しみ(愛)を叫んだ。

世界チャット
発信者ヤンキー
「すいません、遅刻しました!!!」

「ぬ!? ヤンキーが来たか! ルームを開いているからちょっと来い!」
言われたナンバーのルームに入る。
そこには予想外の大人数。
ジジイの集めたかくれんぼ参加者たちが鎮座していやがった。

ヤンキーは謝った。
「・・・ご、ごめんなさい。ちちちち遅刻してしまって!!」
普段あれほどジジイ遅刻をネタにしているヤンキーである。
何を言われても仕方が無いといえる。
正しく、自業自得。
だが。
こいつらは、違った。
「うむ。よくきたな! まだ始まったばかりじゃぞい!」
「ヤンキーさんおそいぞぉ〜〜ww」
「さぁ、続きをはじめましょう!!」
ジジイや参加者たちの温かい言葉が溢れる。
どう見ても、ヤンキーに弁解の余地はない。
しかし、こいつらは気にしていなかった。
むしろ、心配していたというのだ!

余談ではあるが。
ヤンキーがまだINしていない頃、ジジイが何か言っていたらしい。
細かい内容は知らないが、ヤンキーは仕事で遅れるかもしれないという感じのニュアンスで。
16時スタートを様子見て、17時スタートにしたくらいである。
普段はバカしか言わないジジイのさり気ない優しさがこの空間には満ちていた。
否、溢れていた。

涙である。
オトコが流す真実の涙である。
モニターの前で流れる涙が止まらない。
いや、違う。
止まるわけがない。これは流れて当然の涙。
喜びの感情が形となった幸せの具現だった。

「つーわけでヤンキーが鬼な♪」
「・・・・は?」
突然の展開に思考が付いていかないヤンキー。
「まぁ、遅れてきたんだから文句はないよな、ヤンキ〜〜〜〜?」
「当然ですよねぇ、ヤンキーさぁぁぁ〜〜〜ん?」
「当たり前だよなぁ、ヤンキー〜〜〜〜?」

一歩後ずさる。
なんか、ジジイを筆頭に殺気がでてやがる。

「ふっふっふ。一番に見つけて賞品GETだぜ!」
「どこに隠れようと見つけてやるぜぇーーー!!」
「ぶっ殺してでも見つけてやらぁ!!」
「ふぉふぉふぉ! 背中には気をつけたほうがいいのぉ、ヤンキー?」
いや、こいつら、本気で殺す気ですよ!?
逃げた。
もう脇目も振らずに逃げました。
馬を使って走った。
飛行器で飛んで逃げた。
「あ、ヤンキー? 空には逃げるなよ。歩いていけるところだけ限定だからな!」
退路も断たれた!
こいつら、本気の本気で潰す気だ!!

「スタートじゃ!!」
しかも始まった!?

マップの端から怒号が聞こえる。
もう、振り返る余裕さえヤンキーにはない。
「ど、どこか、どこか隠れるところはないのか!?」
人ごみを掻き分けて挙動不審のヤンキーは走る!
辿り着いたところは祖龍で一番人気のない東地区。
そこでヤンキーの目に止まる物体。
「あ、あそこしかない!!」
港に泊まる一隻の船。
一目散に駆け出し、飛び移る!
死角に隠れて、息を殺す。

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
土煙を巻き起こしながら奴らがやってくる!

「ヤンキーーーー! どこだぁーーーー!!!!!」

そのまま通り過ぎる、一匹のトラ。
ちょww あいつら加速アイテムまで使ってやがる!?

本気だ。
本気でこいつら、かくれんぼしてやがる・・・・!!

そこから先は思い出すのも恐ろしい。10分間だった。
PT招聘飛ばして位置を特定しようとするわ。
現在のマップにいるキャラクターの名前で場所を割り出そうとするわ。
すぐ目の前の道路で立ち止まって、動けなくなるわ。


「み〜〜つけたぁ〜〜〜」

「ひぃ!」
妖精さんが空から降ってきた!
そして、ジジイのところに連行されるヤンキー。
「うむ。このへたれ顔は間違いなくヤンキーじゃ!!」
「顔で判断するな! 名前を見れば一発だろが!!」
「うむ! これにてかくれんぼは終了じゃ!」
賞品を渡し始めるジジイ。

ヤンキーの目がキラーーーンと光った。
そう、今この瞬間をおいて、チャンスはない!
「ジジイ!」
「なんじゃ?」
「最後の締めは私が!」
「よし! 叫ぶのじゃ!」

事前に何の連絡もしていない。
だが、ベテルギウスを私は信じる!!
この世界の全てよ!
私に力を貸してくれ!!!

世界チャット
発信者ヤンキー
「さて、みんな。準備はいいか?」

これだけで何人かはドッキリと気付く。

世界チャット
発信者ヤンキー
「じゃぁ、いくぜ?」

この瞬間のために、この2週間頑張ってきた。
これを叫ぶことだけを考えて、
感謝の意味を込めて、歩いてきました。
一度目に失敗して、
二度目に遅刻して、
何度失敗しても、私は諦めなかった。
絶対に諦めたくなかった。
だからこそ、この言葉を叫びます。
一週間、遅れてしまったけれど。
ジジイ。
私がただ一人、ギルドマスターと認めた男へ
心から感謝を込めて、叫びます。


世界チャット。
発信者ヤンキー。

「ジジイ、一週間遅れのハッピーバースデー!! 誕生日おめでとう!!」


そして、咲き誇るように次々に祝福の言葉がジジイに送られていく。
「おおぅ!」
突然のサプライズにジジイも驚きを隠せない。
私には見えないが、ジジイに祝福の囁きもたくさん届いている。
その場にいる人達からもお祝いの言葉が送られていく。

最高の終わり方が出来た。
終わりよければ全て良し!

まぁ、かくれんぼは別として、ギルドイベントとしては大成功を収めることが出来た。
ジジイを祝福してくれた人達
かくれんぼに参加してくれた人。
ヲタレンジャーメンバーの皆。
そして、ジジイ。

最後に私ことヤンキーから一言言わせて欲しい。

「ありがとう」



もどる!!

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