四月
またも唐突に長老がこう言いやがった。
「あの空の彼方へ(2008年四月時点でベテルギウス領土保有最多最強ギルド)に宣戦布告してきたぞい!!」
「ま、まさか! 二人で挑むというのですか!?」
「モチのロンじゃ!!」
 長老のカリスマが次元を超えた瞬間である。
「ちなみに…………」
「はい?」
「サブキャラ作ったから、そいつも参戦させるぞい!」
「いや、だから、意味ねぇっつってんだろうが!!」
ヤンキーのツッコミのLvが上がった。

4月5日。
ヤンキーが知り合い関係に領土戦の話をする。
暖かい声援。
「がんばって負けて来いよ!」
「逝って来い!!」
「まさに最速記録更新だな…………負けるほうの!」
…………あれ? これって声援か?

4月6日。
そして、決戦の日。
ヤンキーは朝からレベル上げにいそしむ(無駄な足掻き)
長老、特に何もせず…………
「ワシ、夜は夜勤じゃから寝るぞい!」
「やる気あんのかこのヤロウ…………!」
ギルド内に不穏な空気が流れ始める

5時
真っ赤に染まる夕暮れの中(天気は曇り)ヤンキーは立ち上がる。
ヤンキーの所持ラッパ(世界チャット必要アイテム)数「17」
この時点で彼は17回叫ぶことを心に誓っていた。
否、断じて否である!! 魂が叫ぶことを止められなかっただけなのだっっっっ!!

7時45分
世界チャ一発目
「祝! ヲタレンジャー初領土戦イベント開催告知!! ギルドの垣根を飛び越えてみんなでギリギリまでバカ騒ぎイベント!!!!!」
ヲタレンジャー暗黙の了解その1〜騒ぐときはド派手に騒げ!〜
アサギさんが速攻で駆けつける。
あまりの速さにヤンキーは心から感動する。
親友のSagamiが花火を80発こさえてくる。
あまりのサプライズにヤンキーの涙腺が緩む。
ギルマスの長老がまだINしない
あまりの無責任にヤンキーイライラが止まらない。
ギルド内の雰囲気がギスギスする。内部分裂の予感…………

8時
「ちょっと、祖龍の南までテレポートしてくる!」
「なんで?」
「ふっ…………挑む我々がご挨拶に行くのは当たり前だろう?」
「いてら〜〜〜」

〜〜移動中〜〜

目の前に広がる最強の背中。
視界に入れた瞬間に膝を屈してしまいかねない衝動は、当然の恐怖。
容赦なく襲ってくる威圧感というは、間違いなく奴らから発せられていた。
(こ、これが…………王者の貫禄!!)
息も絶え絶えなヤンキーの横を通り過ぎる怒号。
「私が物資を調達してきます!」
「オレも行く! 一人じゃ無理!!」
「今日の作戦は…………」
着々と進んでいく戦争の準備。無駄の無い理想の行動。見惚れてしまうほどの美しき絆。
油断など微塵も無い。
侮りなどあるわけが無い。
彼らは理解しているのだ。
今から始まるのは戦争なのだと。
今から進む場所は戦場なのだと。
そして、最後に立っているのは自分たちだと。
最強であることこそが自分たちの存在意義。
向かってくる敵は容赦なく叩き潰すというその姿勢。
その光景を前にして―――

「くっ…………くはははは、ハァーハッハッハッハッハ!!!」

口から発せられた言葉は、魂からの歓喜。
そうだともそうでなくてはそうであろうとも!!!
倒すべき敵が最強であるからこそ戦う意味が意義が価値があるというものだ。それでこそ最強!! 戦うのなら最強を倒すために戦うべきだ。
最高だ、今この瞬間、テンションは最高潮に達した。この光景をみただけで準備は整った。

折れかけた膝はいつの間にか初めの一歩を踏みしめていた。
堂々と彼らの真ん中に歩んだ私は、最大限の尊敬と畏怖を込めて、宣言する。

「初めまして、「ヲタレンジャー」参謀のヤンキーと申します。今日の領土戦は胸を借りるつもりで挑ませていただきます。よろしくお願いします!!」

応えたのは最強の言葉たち。
いつでも挑戦は受けて立つ。
漲る自信が返された言葉には込められていた。

「はい、最高の戦いを期待します!! では失礼します!!」
胸を張り、堂々と歩いて帰る。
この瞬間、ヲタレンジャー歴史は始まったといっても過言ではなかった。

8時30分
帰ってくると、暖かい声援が待っていた。
「おぉぉ…………! みんな来てくれたのか!」
「おう!! 今日はがんばって来いよ!!」
「もちろんだ! いつでも準備は万端だぜ!!」
親友たちから最高の声援を貰い、あとは戦いが始まるのを待つばかりとなった頃。
「あっ、そういえばさぁ〜〜〜〜」
「ん? どうかした?」
「長老さんはまだ来てないの?」
「………………………………………………………………」
あたりを見渡す。そこにはもちろん居るはずもなく…………
「ちょ、あの人まだ来てないのか!?」
一番忘れてはいけない存在を忘れていることに気付く一同。
時刻は8時50分。
戦争開始までのこり25分。
「やばいやばいやばいやばいやばいやばいって!!!!」
「え? もしかして領土戦に一人?」
「まぁ、勝敗はわかってるけど流石に一人はまずくない?」
一人で行けば、間違いなく冷やかしである。
しかし、ヤンキーは言った。
「例え一人であろうとも、私は挑む!!!!」
「「「「おぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」」」
内心焦りまくりの冷や汗ダラダラの中。
「おはろ〜〜〜〜」
長老堂々と遅刻。
「いやぁ〜〜〜。爆睡してたっちゃ♪」
「ばか〜〜〜〜〜!!!」

戦争開始まで残り15分。
「え〜〜〜。というわけで長老、これから戦争なわけですが…………なにかあればどうぞ」
「うむ。今回の作戦なのじゃがの」
一拍の時間を置いて長老は作戦とやらを言った。
「まずは最初に城壁に上る。敵が来たら、二人で同時に飛び降りる。そのあとは好きにせい。
…………以上じゃ!」
「それの、どこが、作戦だゴラァァァァ!!!!!」
「ちなみに飛び降りるときには「トウッ」と掛け声を忘れるでないぞ!!」
「心底どうでもいいわあ!!!」
「では、移動じゃ!」
「実は人の話聞いてないでしょ、あんた!」
「祖龍の西のテレポに行って、あの空の人たちに挨拶じゃ!」
「あぁ、それなら私が先に行きましたよ(あんたが遅刻しやがったからな)」
「なんじゃと!?」
「快く返事をしていただけましたので、もう十分かと」
「嫌じゃ! わしは行く!!」
「どんだけワガママなんですかあんた!?」
「い〜き〜た〜い〜の〜〜〜〜〜〜!!!」
「駄々っ子か! 自分の年齢考えろっこのジジイ!!」
「心は永遠の16歳じゃ!!」
「身体はジジイ、頭脳はクソガキ」
「迷探偵キモス!!」
「どんな事件も必ず迷宮入り確定ですね!!
「わっはっはっは!! では行くぞぃ!!」
突っ走っていく長老。
「はぁ…………。では皆さん、行ってきます」
長老を追いかけていくヤンキーの背中を見つめながら、応援に駆けつけた皆が例外無くこう思った。
(こいつら、本当に大丈夫なんだろうか…………?)

移動した我々を待っていたのは、すでに全員集合済みの最強ギルド「あの空の彼方まで」。
(あぁ、こりゃあれだな・・・・間違いなく瞬殺だな。たった三人だし)
横目で長老を窺うと、いつの間にか居なくなっているギルマス。
「あれ、どこにいったんだあの人は? トイレか? これだからオジイチャンは」
腰に手を置き、ため息を吐いていると。
「ふぉふぉふぉふぉ」
どこからともなく聞こえてくる笑い声。
「誰だ!?」
…………いや、まぁ、一人しかいないのだが。
「今日こそお前さんたちの命運が尽きるときじゃ…………我ら「ヲタレンジャー」が相手じゃ覚悟せぃ!!!!!!」
百人以上の相手に真正面から言ってのける長老。
座禅を組み、決して揺るがぬ不動の姿勢で集中し始めるその余裕にヤンキーも慌てて横に並び座禅を組む。
すると、長老の前に一人の男が歩いてきた。
「手向けの花だ。受け取りな!」
目の前には、「亡者の骨片」が置かれ。
「おまえらの未来だ。光栄に思えや」
「キサマァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
激昂する長老。即座に立ち上がりその拳を振り上げ!
「ありがとう。くれるなら貰っとくお♪」
アイテムを拾ってご満悦な表情でお礼を言うバカタレ。
ずっこけるヤンキー。
「長老、アンタにはプライドがないのか!?」
「ふっはーー!! 気前の良い連中よのう〜〜」
「返してきなさい!」
「嫌じゃ! 後で売ってお金にするんじゃ!!」
「メチャクチャ現実的な計画ですね!! むしろ余裕ありすぎだろ!?」
「もっとくれんかのぉ・・・・・」
「どんだけ余裕なんですか、あんたは!」

9時14分。
そんなこんなで領土戦が始まる。
領土戦の勝利条件。
相手の陣地にあるクリスタルを先に倒したほうが勝利となる。
敗北はその逆。自軍のクリスタルを先に倒されれば敗北となる。

「ヤンキーよ。作戦通りにいくのじゃ!!」
「城壁登って飛び降りるのを作戦と言い張りますか・・・・」
二人は走りながら城壁を駆け上がる。
5秒後に先陣切って一人の男が来た!!
「ヲタレンジャー、参上!!」
「トウッ!!!」
飛び降りる二人。

戦闘開始。
ヤンキーはウイングウォーク(速力強化)で間合いを詰める。
長老はその間に魔法の詠唱を唱え始める。
ヤンキーの装備する拳は最速の武器である。間合いさえ詰めれば、勝機はある・・・!
(貰ったぁぁぁーーー!!)
しかし、その思惑とは裏腹に手応えの無さが証明する。
(ダメージが通っていないだとぉぉぉ!?)
驚愕はさらに続く。
「ワッハッハ! ワシの魔法ならどうじゃ!!!」
炸裂する長老の必殺魔法!!
「なにぃぃ!?」
爆炎の中からでてきた敵は、全くのノーダメージ。
レベルが違う。
格が圧倒的過ぎる。
(これが最強のギルド・・・!!)
「ヤンキーよ! パワーシャウトじゃ!!」
長老の悲鳴めいた指示が飛ぶ。
パワーシャウト。周囲の敵を三秒間停止させる戦士の代表的なスキルである。
「オラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」
停止する敵。しかし、三秒間ではあまりにも少なすぎる・・・!
「ヤンキーよ、行くのじゃ!!!」
「なっ!?」
それだけでヤンキーは理解した。長老はこう言っているのだ。
こいつは一人で食い止めるからお前は先に行け、と。
「し、しかし・・・!」
「ふっ・・・ワシも後で追いつく。時間が無い、行くのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「くっ・・・」
敵陣に向かって、走り出す。
その数秒後に後方から聞こえる長老の断末魔。
「ちょ、長老!?」
振り返ると、長老が自らの血溜まりの中に沈んでいた。
「キサマァァァアッァァァァ!!!!!!!」
目の前の惨劇に黙っていられるはずもなく、敵に向かって走り出そうとした時。
「行くのじゃ、ヤンキーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
最後の力を振り絞った長老の声がヤンキーの脚を止めていた。
「ふふふ、これならどうじゃぁぁぁ!!!」
長老の姿が敵と共に爆炎に包まれる。
「長老ーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
長老は瀕死の状態でありながら、最後の力を振り絞り、自爆技を使っていた。
最後に見た長老の顔は満足げな微笑みを浮かべていた。
「……あんたのことは、絶対に忘れねぇからな!!!」
涙を堪えて、走ることを再開する。
ここで戻れば、長老の死が無駄になってしまう。
犠牲になった長老の為にも、突き進むしか他には無いのだ
その時、敵の第二陣が現れた!!
しかも三人…………!
一人でもアレだけの強さだ。三人など到底相手になどできはしない。
しかし、ヤンキーはその事実を理解して尚、突撃する。
長老が逃げずに戦ったというのに、自分が何故逃げることができるというのか!
戦力差など承知済みだ。ならば、一太刀でも浴びせてみせる!!
戦術も何も無い、ただの特攻。
「長老の仇ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
しかし、拳は宙を裂き、容赦の無い刃が一刀の元にヤンキーを切断した。
意識が堕ちる。
(長老…………すいません。仇、取れませんでした……)

目覚めると、そこは自陣のクリスタルの前だった。
「あれ…………?」
「おぅ、はやかったのぅ」
目の前には死んだはずの長老の姿。
「何で生きてる!?」
「勝手に殺すなバカモン!」
「ていうか、領土戦は!?」
「まだ、続いておるわい!」
「死んだら、終わりじゃないのか!?」
「あぁ、いってなかったのう…………」
長老は咳払いを一つし。
「領土戦はクリスタルを破壊されるまでなんどでも生き返るのじゃよ♪」
「……………………ソウナノ?」
「そういうことじゃ。何度でも特攻してくるとよいぞぃ!!」
「しゃぁぁぁ、いってくらぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
そんなことを言っている間にも敵さんはクリスタルを殴打中。
倒せないことはさっきの事でも証明済みなので放置である。
次は馬に乗っていくことに決定。
馬の速さは走るスピードの約五倍以上
(ふふふ、これならば敵も捕らえきれまい!!)

……
………一分後。
「おう、はやかったのう」
「あいつらなんだよ!! 数がおおすぎるだろ!!」
死亡にてクリスタルの前に戻るヤンキー。
どんなに速かろうと人海戦術の前にはひとたまりもないのである。
「敵の陣地にさえ辿り着けないぞ!!」
「じゃぁ、次は空から飛んでいくのじゃ!!!」
「オッケーーーー!!!!!」

……
………三分後。
「おう、今度は少し持ったのぅ」
「相手にすらならねぇ!! 敵の陣地に突っ込んだ瞬間、ミサイルが飛んできましたよ!?」
「おぉ、そりゃ砲台じゃの」
「砲台?」
「うむ、領土戦にはいろいろと兵器があってのぉ。お金を払えば、強い兵器を使うことができるのじゃよ」
「何故に私たちは使わないのですか?」
「いやだってのぉ…………金が掛かるのじゃよ、アレ」
「二人で領土戦を挑んでいること自体が金と時間の無駄のダブルコンボだと思いますが……というか、アンタは一体なにしているんですか?」
「うむ? あの空の彼方へのギルマスさんに色々教えてもらっているのじゃ♪」
「戦えよ!!」
「バカモノ!! こんなチャンス滅多にないぞぃ。挨拶せんか!!」
「こんにちは…………て、そうじゃねぇ!!」
つっこんだ瞬間、長老の姿が消える。
「あれ? 長老―――?」
どうやら、長老のパソコンが落ちたようだ。
「アレ? もしかして、私一人になった!?」
その時、あの空の彼方へのギルドマスターさんがこう言った。
「ちょっと投石止めてあげて」
その言葉にクリスタルを十数人でタコ殴りにしていたメンバーの全員がピタッ、と止まる。
おぉぅ……!!? どんだけの統率力ですか!? これが俗に言うカリスマって奴か!!
…………というか、領土戦の最中に休戦て、お茶目過ぎる…………!!
一分後。長老が帰ってくる。
「すまんこってす。おちてしまったぞい」
「お帰りなさい」
「ぬ? ヤンキーはどこじゃ!」
「ヤンキーさんなら一人で突撃しに行きましたよ?」

一方その頃。
「ハァーーーハッハッハッハッハッハ!!!」
最後のいたちっぺとばかりに突撃する懲りないヤンキー。
「せめて最後にクリスタルに一太刀浴びせたらぁぁぁ!!!!!!!!!」
剣林弾雨の乱れる中、突撃するヤンキー。
HPが尽きかける寸前でクリスタルに辿り着く。
自分の最強のスキルを繰り出すために拳を握り締めたヤンキーは叫ぶ。
「もぉぉぉぉぉらったァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
ピンポンパンポ〜〜〜〜〜ン。
「「あの空の彼方へはヲタレンジャーに勝利しました」」
無情にも流れるシステムメッセージ。
「おつかれさまでしたぁぁ」
「おつ〜〜〜〜」
「おつかれさ〜〜〜ん」
戦場を出て、勝利を喜び合う。
「…………終わったぜ。真っ白に燃え尽きたぜ」
リングサイドに燃え尽きたヤンキー。
「ヤンキーよ!! 最後に世界チャじゃ!!」
「はい!!」

「応援してくれた人たち、ササをくれた親友達、そして最後まで全力で戦ってくれた『あの空の彼方へ』の全ての人達へ。
本当に本当にありがとう。心からお礼を申し上げます。これからも、ベテルギウスを盛り上げていきましょう!!!」

「良い出来だったぞぃ!! では、ワシはこれから仕事じゃからおちるぞい!!」
「はい、今日はお疲れ様でした!!!」

ヲタレンジャー第一回領土戦
VS「あの空の彼方へ」
勝者「あの空の彼方へ」対戦時間20分。
長老死亡回数3回。←ざばよんでます
ヤンキー死亡回数6回。←ざばよんでます
ヤンキー世界チャの使用回数17回

こうして初めての領土戦は終わった。
負けはしたが、勝利よりも得難い「なにか」を手に入れることのできた戦いだった。
こうやって、ギルドの歴史を作られていくのだなと感じた一戦だったことは言うまでもない。
領土を一つ獲るまでの道のりは険しくても諦めることはないだろう。
それが我々、「ヒーロー」だからだ!!!!!



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